約 1,077,096 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/545.html
フラレ虫を退治した数時間後 現場に居た使用人・シエスタは、脳内で記録媒体の編集でもしたのか『地獄の(ry』は記憶に無いらしく 「平民でも貴族様に勝てるんですね」と私を尊敬していた その後、マルトー料理長に紹介され、賄い食を御馳走してもらった ちなみに今までは、木の皮や石を食べていた なに?石など食べて平気なのか? 逆に考えるんだ、『1万階の塔には剣や鎧、果ては化け物を食べる者がいるから石程度は平気だ』と考えるんだ 【逆に考える使い魔】 さすがに変態秘奥義はヤヴァ過ぎたか…主人を含む様々な人物が私を避ける… そんな中でキュルケに誘惑された時はガン引きした まぁ、そんなこんなで虚無の曜日 「出掛けるわよ!」 腕を組んだ主人が告げる 「だが断る!嘘!嘘です!ですから今にもグ●ート●ーンを放ちそうな小銀河を治めて下さい!」 主人の背後に見えた星々に敗北した 『やってきました、駿g…城下街 べべん!』 何やら[くにまさ]なるサムライボーイを見たような…キノセイカ… とりあえず、群がるサムライボーイ達を[せんぷうきゃく]で蹴散らしつつ武器屋へ向かう 何やら主人と武器屋がもめているが知ったことではないので周囲の武器を調べてみる →銅の剣 魔剣カ●ス ザ・ハンドのDISC …私は何も見なかった! その後はデルフリンガーを購入という原作どおりの流れだ 魔剣●オス? そんなものは知らんよ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1080.html
トリステイン魔法学院開設以来の大惨事となった使い魔暴走事件より一夜明け、学院の教師たちは事件の 後処理に追われ、被害にあった生徒たちは、ある者は死に、又ある者は未だ治療を受け続け生死の境を彷徨う中、 中庭のテラスでのん気に紅茶と会話を楽しむ者たちがいた。 「いやあ~モンモランシーとデートの約束をしてね~。今度の虚無の日に街に出かけるんだよ~~」 「ギーシュ。それもう五回目だよ」 「聞いてないわよ、マリコルヌ」 声高く笑い嬉しさの余り顔が崩れているギーシュと、それを呆れた顔で見るトリッシュとマリコルヌである。 「でもさ、よく許してくれたわよね。普通は暫く顔なんか見たくないと思うけど」 「よくぞ聞いてくれた!実は全てヴェルダンデのおかげなんだよ!!」 トリッシュが嫌そうな顔で見ている事にも気付かず、ギーシュは顔を綻ばせ傍らに侍る巨大なモグラに頬擦りをする。 マリコルヌはギーシュとヴェルダンデのスキンシップを見て、自分がトリッシュに頬擦りをする光景を想像して 恍惚の表情を浮かべ、気持ち悪い物を見るようなトリッシュの視線にやはり気付かなかった。 「……それで、そのモグラがどうしたのよ」 「そうだ!その話だったね!!」 トリッシュとルイズが決闘の最中、広場の隅でいじけていたギーシュにヴェルダンデが地中から可愛い洋服を 掘り出してそれを差し出した事を幸福の絶頂と言った顔でギーシュが語り、その話を聞いていたマリコルヌは その洋服は自分が埋めた物と気付き、顔を引き攣らせた。 幸いなことにトリッシュはギーシュの話を聞いていた為、マリコルヌの表情に気付かなかった。 「お待たせしました」 ギーシュの話が八回目を迎える頃に、シエスタがイチゴのショートケーキが乗ったトレイを持って現れ配膳を始める。 トリッシュがトレイを見ると、テーブルには三人しか居ないのに何故かケーキが四つ置かれていた。 その『四つ』のケーキを見て、ある人物の事を思い出したトリッシュは、以前から疑問に思っていて聞き辛かった事を 思い切って聞いてみることにした。 「あのさ、『ミスタ』って敬称よね?」 「そうですけど、それがどうかしましたか?」 改まった様子のトリッシュに三人の視線が集まり、トリッシュは心に渦巻く疑念を吐露する。 「もしよ?グイード・ミスタって貴族が居たら『ミスタ・ミスタ』になるじゃない。それってどう?」 「どうって言われても…貴族の方なら敬称は付けないと」 困った様子で答えるシエスタと、トリッシュの疑問を考えるギーシュとマリコルヌ。 トリッシュは更に言葉を重ねる。 「でもさ、その人は名前を二回呼ばれる事になるでしょ?それって失礼じゃあないの?」 「ええと…だったらミスタ・グイードになるんじゃないですか?」 「シエスタ、それ名前を逆さまに呼んでるだけだから」 「しかしだね、他に呼びようがないじゃないか」 トリッシュの疑問に四人揃って頭を悩ますが結局答えは出ず、質問自体をなかった事にして決着となった。 「あら、楽しそうね。私も混ぜてくれないかしら?」 「モンモランシー!勿論だとも!ささ、僕の隣が空いてるよ」 ギーシュの隣にモンモランシーが座り、紅茶とケーキを用意する為にシエスタが厨房へ向かおうと歩き出すが その背中をギーシュが呼び止めて立ち止まらせた。 そしてギーシュは皆を見つめて突然頭を下げ、テーブルに額を擦り付ける。 「ちょっと!どうしたのよギーシュ?!」 モンモランシーがギーシュの肩を掴み身体を起こすと、その顔はいつになく真剣な表情を浮かべていた。 「実はみんなに頼みがあるんだ。とりあえずこれを見て欲しい」 そう言ってギーシュは懐から何枚かの紙片を取り出し、シエスタを含めたテーブルに着いている者たちに その紙片を配り始める。皆が一様に怪訝な顔をして紙片を見ると、そこには数行の文字が書かれていた。 「マリコルヌ。これなんて書いてあるの?私、字が読めないのよ」 マリコルヌはトリッシュから紙片を受け取りそれを読み上げる。 「ええと…ギーシュ様と言って眼に涙を浮かべ……って何だよこれ?!」 「ちょっとギーシュ!なんで私がワインをあなたの頭にかけなきゃいけないのよ!?」 「あの……私、何か粗相を致しましたでしょうか?」 口々に疑問と叫びを上げながらギーシュに詰め寄るが、その反応を予想していたのか詰め寄るマリコルヌたちを 手で制すると真面目な顔で皆を見渡し語りだした。 「みんなの疑問は当然だ。しかし!ここは僕の言う通りに行動して欲しい!このギーシュ・ド・グラモンの 一生に一度のお願いだ。どうかこの通りだ!是非!!僕に力を貸してくれ!!」 ギーシュが今度は地面に額を擦りつけ土下座する。その心の奥底から出る叫びに一同は静まり返り それぞれが了承したとばかりに頷き返し、ギーシュは涙を流しながら皆に感謝の言葉を述べた。 「サイトさんか私が、ミスタ・グラモンが落とした香水の壜を拾えば良いのですね?」 「それで僕が冷やかすと……」 判らない箇所をギーシュに質問しながらそれぞれが役割を把握し、打ち合わせが終わると それを待っていたかの様なタイミングでターゲットが現れた。ルイズとその使い魔である平賀才人である。 「よーっす、シエスター!」 「あ、さいとさん。こんにちは」 呼びかけられたシエスタが台詞を読む様にぎこちなく挨拶を交わす。物凄く不自然なシエスタの態度を サイトは不思議に思いながらも、ルイズと共にギーシュたちの座るテーブルに近づいて行くと、 太陽光を反射して光る小壜がギーシュのポケットから転がり落ちた。 「ギーシュ。なんか落としたわよ」 「「「あーーーーーーっ!!!」」」 ギーシュのポケットから転がり落ちた小壜をルイズが拾おうとし、一同、顔を蒼白にしながら叫びを上げる。 その声に驚いたルイズが身体を竦ませると、その隙にシエスタがサイトの方へ小壜を蹴る。 ギーシュ以下も役者たちがシエスタのファインプレーに心の中でガッツポーズを取るが、ルイズは蹴られた小壜を あっさりと拾いギーシュに差し出す。 「ハイこれ。大丈夫よ割れてないから」 ルイズとしては、自分が小壜を渡すことでギーシュからシエスタを守ろうとしたのだろうが、それはこのテーブルに 着く者たちにとって要らぬ気遣いであった。 「どうしたのよ?受け取りなさいよ」 ギーシュは石の様に固まった。ここで香水の壜を受け取ってしまっては全てが終わりである。 如何したものかとマリコルヌに視線を送るが、マリコルヌは黙って首を振る。 全てはサイトかシエスタが香水の壜を拾う所から始まるのである。ここで冷やかせばルイズと決闘になる。 それではダメなのだ。 「ほら!ギーシュッ!……あれ?」 (スパイス・ガール……香水の壜を柔らかくした。壜はルイズの手を貫通するみたいに通り抜ける) ルイズの手から逃げる様に壜が地面に落ちる。それをルイズは拾おうとするが、手から滑り落ちて拾えない。 ギーシュたちは何が起こったのか理解できなかったが、ルイズが壜に触れないことを見て胸を撫で下ろす。 「なんでよ~ど~して拾えないの~?」 「なにやってんだよルイズ。ほら、俺に任せろ」 サイトがルイズの隣から手を伸ばし香水の壜を拾おうとする。それを見てトリッシュが能力を解除した。 ギーシュ、演出、脚本の舞台が始まった。 「ほら、お前のだろ」 ルイズがジト眼でサイトを睨むが、サイトはその視線に気付かずに香水の壜をギーシュに渡そうとする。 「おお?そのあざやかなむらさきいろのこうすいはもしや、もんもらんしーのこうすいじゃないのか?」 「え?本当なの?モンモランシー」 マリコルヌは大根役者の様に抑揚のない声でギーシュを囃し立て、ルイズがモンモランシーに尋ねるも それを黙殺し、舞台は続く。 「違う。いいかい?彼女の名誉の為に言っておくが……」 トリッシュが突然立ち上がり、眼に涙を浮かべながらギーシュの前に立つ。 「ギーシュ様……」 「ちょ、ちょっとどうしたのよ?!」 眼に涙を溜めて、今にも泣き出しそうな顔でギーシュを見るトリッシュ。 自分の指をヘシ折り、顔を蹴り飛ばしたトリッシュの泣き顔を見てルイズは混乱した。 「やはり、ミス・モンモランシーと……」 「いや、これは誤解だよ。僕の心の中には君への想いだけ……」 「え?え?なになにどゆこと?」 混乱の度合いを増すルイズを置いてきぼりにして、二股かけられた女の子になりきったトリッシュは 思いっきりギーシュを殴り飛ばし、泣きながら何処かに走り去っていった。 「やっぱり、あの一年生に、手を出してたのね?」 「え?一年生って?マリコルヌの使い魔じゃなかったの?ひょっとしてメイジ?」 「お願いだよ。モンモランシー。咲き誇る……」 モンモランシーは、シエスタから受け取ったワインの中身を満身創痍のギーシュの頭にブチ撒けると トリッシュと同じく走り去ってしまった。 「なんだお前、二股かけてたのか?」 「あのレディたちは薔薇の存在の意味を理解してないようだ。そう言う訳で決闘だ!使い魔君!!」 「ちょっと!どういうこと!ぐえ…」 戻ってきたトリッシュにルイズは絞め落とされ、気絶したルイズを担ぎ上げて大急ぎで姿を消した。 「なんなんだ……?」 「さ、さいとさん、ころされちゃう。きぞくをほんきでおこらせたら……」 精一杯に怯えた顔を見せながらシエスタも何処かに走って行ってしまった。 「ギーシュなら昨日の広場で待ってるから、行ってあげなよ」 マリコルヌはサイトに決闘の場所を教えて中庭から立ち去った。 一人残されたサイトは何が何だか訳が判らないが、無視すると色々とマズそうなので仕方ないと言った様子で ギーシュの待つ広場へと歩き始めた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1704.html
ワルドの叫びを背景に、シエスタは幾分離れた場所で体勢を立て直し、ムクリと起きあがった。 見る者に清潔感を与えるはずのメイド服は、地面を盛大に転がったせいで、 目も当てられない様相を呈していた。 服の所々が擦り破れ、埃にまみれている。 しかし、シエスタは服を払うどころか、一瞥すらしなかった。 今は戦いの真っ最中。服を気にしている余裕はない。 シエスタの放つ空気が、そう物語っていた。 「ぐぬぬぬぬぅ……ギッッ!!」 己のひしゃげた右腕を庇いつつ、ワルドは低く唸った。 呼吸は荒く、顔面に滲み出た汗がボタボタと地面に滴り落ちる。 先程の一撃で体中が痺れているという事実に、ワルドは今更ながら戦慄した。 (バカなッ……! こんな非常識……死、死んでしまうぞッ……! こんなの有り得るか!!) 彼女の腕力に予め気付いていれば、それなりの対処も出来ただろうが、 あの小柄な体格で、こんな非常識な馬力を出せるなど、誰が想像できようか。 正直な所、彼はシエスタを見くびっていた。 その代償は大きい。 幸いに杖は無事だったが、杖と腕、どちらを折られたとしても、 平民にやられたとあっては、大変な不名誉になることに変わりはない。 自然、彼を襲う身を裂くような痛みは、そっくりそのまま怒りに変わることになる。 視界がグニャグニャと歪み、赤のランプがチカチカ灯っているが、それらを気力で封じ込め、 ワルドは捻り曲がった右腕から杖をもぎ取り、左手に持ち替えた。 絶望的なまでの筋力差を見せつけられても尚、彼の心は勝利へと向けられている。 それどころか、腕を折られたことで、彼の中の凶暴な部分が目を覚ましたようでさえあった。 ワルドの目に一瞬狂気の色が浮かぶ。 ルイズがこの場にいることなど、頭から吹っ飛んでしまったようだ。 「うぉ……おのれ! この動きが見切れるかァ!!」 たった一撃が致命傷になりかねない相手に対して、ワルドは敢えて近づいた。 離れた距離を活かして魔法攻撃に専念するのが最善なのだが、 接近戦でシエスタを打ち負かさないことには、ワルドの気は収まらないのだ。 左に持ち替えた杖を複雑に動かしてフェイントをかけつつ、ワルドはシエスタ目掛けて疾駆した。 右腕が使えなくとも、彼の技巧は些かも衰えない。 予測し難い複雑な杖の動きは、さながら無数の毒蛇である。 それに対しシエスタが繰り出すのは、左右交互の連撃。 その悉くが夜の帳よりも冷たく、重い。 しかし、シエスタの拳がワルドを捉えることはなかった。 風が雨の間を潜り抜けるように、ワルドにかわされてしまう。 拳の合間を縫ったチクチクとした攻撃が、嘲笑うかのようにシエスタの全身に刻まれていった。 「ウリャアッッ!!」 痺れを切らしたのか、その動きを読み切れないまま、シエスタは空間ごと抉り取るかのようなアッパーカットを放った。 が、惑わされたままの闇雲な一撃が当たるはずもない。 大振りのアッパーカットの先にワルドの姿はなく、ワルドは素速くシエスタの側面に回り込んでいた。 「速さなら負けはしない。 僕の二つ名は『閃光』だ」 「……!!」 がら空きになった脇腹に杖がめり込み、シエスタは再び地面を転がった。 威力・速度・タイミング、いずれも申し分ない、絵に描いたようなカウンター。 肋骨の二、三本も折れたかもしれない……折るつもりで、ワルドは攻撃した。 立てるはずがない。 立てるはずがないのだ、常人なら。 そう確信している上で、未だにワルドが杖を収めていないのは、 彼が既にシエスタを常人と見なしていないことの表れだろう。 鈍痛を放つ右腕に顔をしかめながらも、ワルドは余裕を取り戻した口調で話しかけた。 「まるでトロル鬼のような……パワー。 ……マンティコアのような瞬発力。 ぬぐ……。見てくれ、この腕を。 直ぐに『水』のメイジに診てもらわなければならないよ。 全く、驚いた。 だが惜しむらくは、君は戦い方がズブの素人だということだ。身体能力を活かせてない。 これ以上は無益だ。降参したまえ、メイド君。 さもなくば、もっと痛い目を見ることになる」 『降参』の一言を耳にするや否やであった。 立てるはずのないシエスタが、瞬時に跳ね起きた。 どういうわけか、あれだけ動き回ったにも関わらず、彼女の呼吸は全く乱れていない。 未だ肩で呼吸をしているワルドの脳裏に不安がよぎったが、それは杞憂であった。 シエスタの脇腹に刻まれた打撃痕が、間違い無く彼女の動作の支障になっているのが見て取れた。 常人離れしている化け物とはいえ、ダメージの蓄積は人並みらしいことに、ワルドは少なからずほっとする。 その一方でシエスタは、唇から垂れる鮮血を片手でやや乱暴に拭い、訥々と同意を示した。 「…………そう、その通りですわ。 取り立てて才能の無い一般人『だった』せいもあり、 わたくしには戦いに必要な技術的要素が欠落しています」 「特にあなたのように技量のある貴族相手では、それが露見してしまうのは当然でしょう。 今のわたくしでは、貴方に勝つのは難しい」 それは、シエスタなりに第三者的見地に立って考えてみた末の結論だった。 いかに生物的に人間を上回っていても、積み重なった人間の技術に敗れ去ることが有り得るという現実を、 シエスタは今実感していた。 最初こそワルドの油断につけ込めたが、もう彼には力任せな攻撃は通用しないだろう。 加えて、先ほどの流麗なな杖捌き。 がむしゃらに足掻いても、まさに柳に風だ。 シエスタは負けるわけにはいかない。 が、『今の』自分にはそうした粗雑な攻撃しかできないのはどうしようもない。 なら、どうするべきか。 シエスタは考える。自分の主の事を。 何故、主は敢えて自分をワルドと立ち会わせたのか。 その意味を。 「さぁ、参ったと言うんだ。 これ以上女性を痛めつけるのは、僕としても心が痛む」 ワルドが急かす。 だが、シエスタはそれをまるっきり無視した。 (…………………………) 俯いたまま暫くの間無言で考えた後、シエスタは何かに気づいたのか、はっとした顔になった。 「…………わかりましたわ」 「降参、する気になったかね?」 シエスタの独り言を都合よく捉えて、ワルドはふっと肩の力を抜きかけた。 「いいえ、子爵様。 申し訳御座いませんが、もう暫くお付き合い願います」 シエスタは再びゆっくりとファイティング・ポーズをとる。 自分の意に沿わぬ返答を受け、ワルドは不快感も露わに呪文を唱え始めた。 ―――――――――――――― 「で、そろそろ説明してくれるんでしょうね?」 ワルドの右腕がオシャカにされるのを見届けてから、ルイズは隣に佇む自分の使い魔に声を掛けた。 完全に蚊帳の外に置かれていたせいもあり、彼女の口調は若干キツいものになっていた。 シエスタとワルドを挟んで、ちょうど向かい側にいたはずのDIOは、 いつしかルイズの側に移動している。 彼は四六時中無駄にオーラを放っているので、ルイズは嫌でも近付いて来るのがわかった。 DIOの接近が分からなくなるのは、彼が意味不明な超能力を使ったときだけだ。 「今回、シエスタをあの子爵に焚き付けたのには、いくつかの意図があってのことだ」 すんなりと口を開いてきたことに、ルイズは正直ビックリした。 この使い魔は、そう簡単に自分の企みを話したりはしない。 散々っぱら弄ばれ、気がついたら完全に彼の掌の上――という方向に持っていくタイプなのだ。 それをこうも易々とひけらかすとは考えにくい。 ということは、むしろこの場合、 私も聞いておくべきだと思っているからこそ、話していることになるのだろう。 ルイズは心持ち身構えた。 「シエスタは私のメイドになってからまだ日が浅い。 つまり、経験が不足しているのだ。圧倒的にな。 だから、あの子爵と戦わせることでそれを補わせる」 「ふぅん。案外使用人思いね」 「幸いにもあの子爵は、メイジとしても、武人としても、それなりに道を修めているようだ。 まさに打ってつけというわけだ」 それだけじゃないでしょう、と視線でコンタクトを取ると、DIOは頷いた。 「無論、私にとってもこの方が好都合なのだ。 この世界の『魔法』には、色々系統があるそうじゃないか。 私は極力それら全てを目で見て、知っておく必要がある。 ……骨を折らずにな」 「意外ね。こういうのは、あんたは自分でやると思ったんだけど」 「私が療養中だと言ったのは、あながち嘘ではない。 それにだ、私が本当に『人』と張り合うとでも思ったのか、ルイズ?」 ニヤリ……そうとしか形容しようのない笑みを浮かべて、DIOはルイズを見た。 「思うわ」 ルイズは頷いて答えた。即答であった。 DIOの言葉を真正面から斬って捨てて断言してくるルイズに、DIOの笑みが消える。 その代わりに、氷より冷たい無表情が浮かんだ。 「……ほう、何故だ?」 「だってあんたってヘンに子供っぽいところがあるもの。 負けず嫌いと言い換えてもいいわ」 「……………………」 「私と一緒ね」 今度はルイズがニヤリと笑う番だった。 「……フン、何を血迷っている。 そもそも私と人間どもとでは、強さの次元が違う。 私と、私のスタンド『ザ・ワールド(世界)』は、あらゆる点に置いて別格なのだ」 自信たっぷりに言い切るDIOに、ルイズは今度は危険性を感じた。 負けず嫌いなのは大いに結構である。 自分もそうであると自覚している以上、ルイズにそれをどうこう言う資格はない。 だがこの使い魔は、負けず嫌いの性分がプライドと直結しているようである。 それが自らのとてつもない(?)力と相まって、しばしば他人の力を過小評価させてしまうようだ。 その点が、こいつの致命的な欠点と言えるかもしれない。 それを矯正してやることが、自分の役割であるようにルイズには思えて仕方がなかった。 何故かは知らないが、妙な目的意識に駆られてしまう。 ルイズは自然と口を開いていた。 「確かにあんたは強いかもしれないけど、あんたの場合はもう少し…… ……ホントーに少しでいいから、謙虚な心構えを持った方がいいと思うの。 もう足を掬われないためにも、ね。 私の言ってる意味、分かるでしょう?」 DIOがジロリ、とルイズを見下ろした。 「このDIOがか?」 「どのDIOでもいいから、何とかしなさい。 今後の課題! わかった?」 「…………フン」 釈然としない不満げな返事だったが、ルイズはそれ以上に念を押すつもりはなかった。 DIOはプライドが高くて自己中だが、決して愚かではない。 きっと自分の意志を酌んでくれると、ルイズは分かっていた。 ――何故なら、DIOと自分は似ているから。 だから、分かる。 ルイズは頭ではなく、心で理解していた。 (私にも、力があれば……) そうこうしているうちに、ワルドの風魔法が、シエスタを横殴りに吹き飛ばした。 エアハンマーの魔法。ワルドの本領発揮だ。 「あちゃあ、あれは痛いわ。 …………ま、いい気味ね。せいぜいのたうち回るといいのよ」 地に伏せるシエスタを遠くに見て、ルイズはサディスティックな笑みを浮かべた。 普段からルイズは、シエスタを好ましく思っていなかった。 それに、この任務の出発の折り、シエスタはルイズに『主人としてふさわしくない』と言ってもいる。 お互いウマが合わないのだ。 だから、シエスタがワルドにやられようがどうでもいい。 どうせならこの際だ、滅茶苦茶にやられてしまったほうが気分も良くなるというものだ。 (やれ、ワルド。そこだ。いけ。一息にやってしまえ。 引導を渡してやるのよ!) ルイズのリクエストに応えるかのように、ワルドは杖を操り、シエスタを追い詰めていった。 三次元的に攻撃され、流石のシエスタも避けるだけで精一杯らしい。 DIOに聞こえるように、ワザと大きな声で、ルイズはシエスタを嘲った。 「ハン! いくら化け物でも、所詮はメイドだったってことね。 防戦一方じゃない」 「いや、あれでいいのだ」 「へ? 何で?」 ルイズがきょとんとした顔を向けたが、DIOはそれに答えないまま、中庭の隅の方に視線を巡らせた。 暫くの間の後、DIOの視線はある一点で固定される。 DIOの笑みが更に深まったのを、ルイズは見た。 「席を外させてもらう。ほんの少しの間だけな」 「は? ち、ちょっと待ちなさ…… ……もう、勝手なんだから!」 言い終わるか終わらないかのタイミングで、DIOはパンパンと二度両手を打った。 ルイズにとっては、もうそろそろ馴染み深いものとなりつつある合図である。 果たして、目の前にいたはずのDIOの姿が忽然と消えた。 そのこと自体はあまり問題では無かったのだが。 「……う、ぐ…なに、こ、れ?」 不意に、違和感。 今存在している空間から他のどこかへ、一瞬投げ込まれたような。 モノクロの世界を見た気がした。 自分の立ち位置が酷く覚束なくなってしまった不安感に吐き気を催しながら、 ルイズは慌てて顔を上げた。 その先では、シエスタとワルドが、杖と拳を凄まじい速度で繰り出していた。 ついさっきと全く変わらない光景であるのだが、ルイズは首をかしげた。 あの気持ち悪さを感じた時、一瞬…………本当に一瞬だったが…… 二人の動きがピタリと停止したように見えたからだった。 まるで時でも止まったかのように。 自分でも要領を得ない感覚に、ルイズはDIOの行方を考える余裕を失ってしまった。 (…………気のせい、じゃない) まさかシエスタとワルドが、二人して自分をからかうなどという事をするはずがない。 しかし奇妙なことに、ルイズは先ほどの感覚が気のせいであると決め付けることが、どうしても出来なかった。 ルイズは首を傾げ、自分の掌を何度も何度も、握ったり開いたりしていた。 (どこかで知ってるような気がする……) そう、確かフーケ戦だ。 ―――――――――――――― 中庭でシエスタとワルドによる、しっちゃかめっちゃかな攻防が繰り広げられる中、 その戦いを、中庭から少し離れた柱の陰で静かに見つめる者の姿があった。 赤縁の無骨なメガネが、昇りきったばかりの朝日の光を跳ね返す。 その下には、冷たく感情を読み取れない暗い目、そしてその下に出来ている隈が、彼女の纏う暗鬱な雰囲気を増大させている。 名をタバサと言った。 彼女は昨晩ベッドに飛び込んでから、戦々恐々としたまま眠れぬ一夜を過ごしたのだった。 幸か不幸かタバサはそのお陰で、早朝中庭に向かう幾つかの人影を目撃する事が出来た。 最初は無視しようと思ったが、一行の中にDIOとシエスタの姿を認めるや否や、 タバサはまるで蜜に誘われる蝶のように、ふらふらと後を尾けて行ったのだった。 疲弊しきった見た目とは裏腹に、彼女の神経はアイスピックよりも尖っていた。 そしてその視線が捉えているのは、シエスタの一挙手一投足である。 「…………やっぱり」 魔法衛士隊隊長であり、そしてスクウェアクラスでもあるらしいワルドに対し、 身体能力的に大きな差を見せるシエスタの姿を見て、タバサ思わずそう呟いた。 あのメイドが、技術的にワルドに勝てないことは、タバサは何となく察知していた。 技術とは、年月を掛けた鍛錬を積んで初めて修得しうるものである。 ほんの少し前まで唯の少女だったシエスタに、それが備わっているのはおかしい。 タバサが注目していたのは、別の点である。 先程の独り言は、その点を改めて確認したことから生じた物であった。 この事実を、今日の内にあの男に問いただす必要が…… 「何が『やっぱり』なのかな、お嬢さん?」 あるはずの無い返事が背後から確かに投げかけられ、男の手が両肩にしっかりと置かれる。 タバサの全身が硬直した。 to be continued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1445.html
「駄目かな?」 「そりゃ駄目って事は無いけど…」 昨夜タバサに母の治療を頼まれた育郎は、朝の食堂で、食事をとろうとするルイズに、タバサと供に、昨夜の事を話していた。 といっても、タバサが呼び出して襲い掛かった?辺りの話は伏せてだが。 「でも、あんたに治せるかどうかはわからないんでしょ? えっと、タバサだっけ、貴方はそれでも良いの?腕の良いメイジに見せた方が」 「かまわない」 タバサが何時もと変わらない無表情で即答する。 「それなら良いんだけど………そっか…ひょっとして…」 しばらくブツブツとつぶやいたルイズが、一度育郎を見、そしてタバサの方に向き直る。 「ねえ…あなたの使い魔って風竜よね。家に帰る時は使い魔に乗ってくの?」 その質問に頷くタバサ。 「じゃあさ…帰りでいいから、私の家に寄ってくれない?」 「わかった」 「じゃあ家に連絡入れないといけないから、出かけるのは来週の虚無の曜日ぐらいに」 「あらタバサ。珍しいじゃない、ルイズと一緒だなんて…あ、そういう事…」 食堂に入ってきたキュルケが、ルイズ達と話しているタバサに気付く。 「キュルケ…何がそういう事なのよ」 「さーねー、にしても相変わらず空いてるわね、貴方達の周り」 先日育郎が生徒達を返り討ちにした事が伝わってから、食事の際、以前にもましてルイズ達の周りに人がいない状況になっていた。 寄って来るのは、何かとルイズにちょっかいをかけに来るキュルケと、何故かギーシュがモンモランシーと一緒に話しかけてくるぐらいである。 もっとも、モンモランシーはいまだに育郎を警戒しているようだが。 「それで、何を話してたのかしら?」 「えっと…今度の休みにこの子の家に行く事になって」 他人の家の事を話すのもどうかと思い、ルイズはそれだけを告げる。 「タバサの家?じゃあ私も行かせてもらうわ」 「な、なんでよ?」 「あらいいじゃない。タバサ、良いわよね?」 「…かまわない」 「ほらね。っとそれとタバサ、こっち!ちょっとこっち来て!」 「ちょ、ちょっとキュルケ、何処行くのよ!」 ルイズを無視し、キュルケがタバサの手を引いて、食堂の外に連れて行く。 「もう、なんなのよキュルケの奴…」 「友達が心配なんだよ、きっと」 「…そうかしら?」 ぶすっとするルイズを育郎がなだめている最中、キュルケは人目の無いところまでタバサを連れて行き、少し躊躇した後、真剣な目で話し始めた。 「あのねタバサ、あたし昨日貴方がイクローに手紙を渡しているところを見てたの…その、なんて言えばいいのかしのね?あたしね、彼が人間じゃないって知って びっくりしたって言うか…ほら、あたしの二つ名知ってるでしょ? そう『微熱』…でね、実は彼の事いいかなーって思ってたんだけど、 でも彼が亜人って分かって、さすがにどうかと思って諦めたのよ…」 そんな事を自分に話す意味がわからないが、とりあえず黙って聞いているタバサ。 「だからあたし、貴方の想いに気付いた時ショックだったのよ… 確かに貴方に恋をするように勧めたわ。でも貴族が亜人となんて…って」 少し間を開けた後、ガシッ!っとタバサの両肩をつかむ。 「でも一晩考えて気付いたの!私が間違ってたわ!そして感動したのよ! そう!種族の差なんて、愛の前に関係ないって貴方に教えられたの! あ、でも心配しないでね、あたしは貴方の事を応援するから」 「応援?」 何を応援するというのだろう? 「そう、だって親友の貴方が恋をしたんだもの!」 なるほどとタバサは思った。 キュルケは自分が育郎に渡した手紙を、恋文と思ったらしい。 「勘違い」 いつも通り、簡潔にその事を伝える。 「もう、照れなくてもいいのよ!家に帰るのも、親御さんに紹介しに行くんでしょ? 安心して、そりゃ反対されるでしょうけど、一緒に説得してあげるから! そうだわ!いざとなったら私の実家でかくまってあげる!」 しかしキュルケは分かってくれなかったようだ。とはいえ特に害があるとも思えず、さらに言えばめんどくさいので、タバサは一々訂正する事はしなかった。 自分の実家に一緒に来るのだ、その時に分かるだろう。 タバサがそんなことを考えているとは露知らず、キュルケは少し困ったように続ける。 「それでね、彼の全てを受け入れたくなるのは、すっごくよくわかるんだけど…… あのね………その………一度に2本までにしておくのよ?」 「何が?」 「オールド・オスマン、モット伯をお連れしました」 「うむ、入ってもらいなさい」 王宮勅使、モット伯を案内するミス・ロングビルは、顔にこそ出しはしないが、これ以上ないというほど不機嫌だった。 その原因は2つある。 一つは彼女が王家やそれに近しい貴族が、この世で何よりも嫌いだという事。 そしてもう一つは… 「では、王宮よりの命しかと伝えました」 「うむ、ご苦労」 受け取りの書類をオスマン氏から手渡されたモット伯が、部屋を出る前にミス・ロングビルに話しかける。 「相変わらず美しいですな、ミス・ロングビル。今度是非一緒に食事でも」 「まあ、お上手ですこと。お言葉は嬉しいですが、遠慮させていただきますわ」 モット伯のお世辞を抵当に受け流すロングビルは、彼の目が何を見ているか気付く。 その視線の先にはミス・ロングビルの胸があった。 おっぱいである。 その谷間を見る顔は、好色極まりなく。 そしてその視線はねっとりと執拗で、そして容赦がなかった。 視 姦 で あ る そのスケベ面に拳を叩き込みたくなるが、グッと堪える。 ていうか、いつまで見てるんだいこのドスケベ! かれこれ5分はたっぷり眺めているが、それでも全く止める気配がない。 何とかしてくれないかと、オールド・オスマンを見る。 「モット伯…それぐらいにしておきなさい」 期待はしていなかったが、なんと意外なことに、オスマン氏がモット伯を諌める。 「オールド・オスマン…」 「よく見ておきなさい」 よく見る? どういう事かと思っていると、オスマン氏がミス・ロングビルの方を向き、その視線を胸に向けた。 おっぱいにである。 その谷間を見る顔は、モット伯を上回る好色さだった。 そしてその視線はモット伯よりさらに執拗で、そして容赦がなかった。 しかし、そこにはモット伯には無いものも物も含まれていた。 それは愛であった。 おっぱいに対する愛が溢れていた。 その視線には、乳飲み子を見る母の愛にも似たものがあった。 い っ そ 惚 れ 惚 れ と す る よ う な 視 姦 で あ っ た 「おお、オールド・オスマン…」 モット伯が感極まった声をあげる。 「わかったかね?モット伯」 威厳に満ち溢れる声でそれに応えるオスマン氏。 「お見事!私のような若輩者では、まだ貴方の足元にも…」 「なに、君も後10年もすれば…」 「いやいや、私などまだまだ…」 「いやいや、君もなかなかの…」 「うおおおお!ギブギブ!ギブアップじゃ、ミス・ロングビル!」 あぁもう!ハラがたってしたがないね! モット伯が部屋を出た後、早速オスマン氏にキャメルクラッチをかけながら、ミス・ロングビルこと、盗賊土くれのフーケは考えた。 まったくあのスケベ親父、人の胸をじろじろと…そのうち盗みに入るつもりだったけど、いますぐホエヅラかかせてやろうかい!? 「し、しかしこれはこれで尻の感触が背中にぃぃぃぃぃぃぃ! ミス・ロングビル!それ以上力を入れてはいかん!折れてしまう!」 そういえばあのドスケベ、学院のメイドを一人買い入れてたねぇ… 人が足りないとかほざいてたそうだけど、どうせ夜の相手でもさせるつもりなんだろ そう考えると、さらに怒りがこみ上げてくるが、ふとあることに気付く。 そう言えばそのメイド、確かあの坊やと… 密かにほくそえむ。 うまくいけば、このうっぷんを晴らすだけでなく、回りくどい事をする必要も無くなるかもしれない。 「そろそろ許してくれんかミス・ロングビル!? それとも、もしやワシを真っ二つにしてラーメ」 「ふん!」 ゴキャ! 「うっ!」 オールド・オスマンを昏倒させたミス・ロングビルは、部屋を出て、学院の正門へと急いだ。そして、いままさに出発しようとするモット伯になんとか追いつく。 「おや?どうかしましたか、ミス・ロングビル」 息を切らすミス・ロングビルの、上下する胸を凝視しながらモット伯が尋ねる。 「いえ…その、モット伯。先程の食事の件、やはりお受けする事にしますわ」 笑みを浮かべてそう告げる。 「おお!それは本当ですか?」 「ええ、よろしければ今夜にでも」 「喜んで!」 そのやり取りの最中も、胸からは視線をそらさないモット伯であった。 To be continued…… 20< 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1765.html
10話 後編 勢いを盛り返したキュルケとタバサがラングラーを追い詰める。 「いくわよ、タバサ!」 キュルケの声とともに、複数のファイア・ボールがラングラーに殺到するッ! それと同時にラングラーは鉄クズの弾丸を二人に向けて放つが、 タバサのウィンド・ブレイクがそれらを全て元の軌道からそらす。 二人を貫くはずだった鉄クズはギリギリのところで二人には当たらず、 その後ろの壁に突き刺さる。 そしてラングラーも、自分に向かってきたファイア・ボールは 全て唾を吐きかけた掌で消滅させる。 互いの技術と能力が、互いの攻撃を無力化する。 このままでは、押し込まれかねない。 ラングラーはそう思った。 相手の小娘メイジは二対一で戦うことで精神力の磨り減りを遅くしている。 しかしさっきから鉄クズを撃ちまくっている自分は、残弾にあまり余裕がない。 チョロい仕事だと思って補給二回分の鉄クズしか持ってこなかったのが、 この状況ではかなり痛い。 一回目の補給は既にしてしまったので、次の補給が最後になる。 今までのようにハイペースで撃ちまくることは出来ない。 しかし――手数を減らす事はできない あの青髪の小娘。 あれがいる限り、こちらの攻撃が直撃する事は望めない。 加えて今はこっちの攻撃を防御するのに徹してるからいいが、 こっちの攻撃の度合いが弱まればすぐ攻撃に参加してくるだろう。 接近戦に持ち込む、というのも考えたがすぐに止めた。 そんなことをしたら確実にホワイトスネイクが動く。 赤髪の小娘の炎を消しつつ、 JJFの射撃をほぼ凌ぎきったホワイトスネイクと接近戦で立ち回れるほど JJFは器用じゃないし、自分もそうじゃない。 このままでは、詰まれる。 その焦りが、ラングラーに一つの決断をさせた。 この二人の小娘を、カラカラのミイラにしてやると。 こんな小娘相手に「これ」をやるのは腹立たしいが、 やらずに負けて死ぬよりはずっとマシだ。 そしてキュルケのファイア・ボールの弾幕が一瞬途切れた瞬間、 ラングラーはJJFの両腕のリングを開いた。 鉄クズの弾幕が途切れる。 それと同時にタバサが素早くルーンを唱え、身の丈より長い杖を軽く振る。 ラングラーがJJFの腕のリングに唾を素早く吐き入れたのは、 それのコンマ一秒、二秒ほど後。 直後、タバサのエア・ハンマーがラングラーに襲い掛かる。 ゴォアッ! 唸りを上げて自分に迫る風圧の塊をラングラーはモロに食らい、 壁に叩きつけられる。 ドグシャァッ! 「があッ!」 自分の体に走った衝撃と鈍痛にラングラーが呻いた。 だが顔を苦悶に歪めながらも、ラングラーの口は笑みの形に歪んでいた。 JJFの腕のリングは既に閉じ、高速で回転していた。 そのリングの中で、先ほど吐き入れられた唾は拡散、分散し、 リングの中の全ての鉄クズに付着した。 無重力の世界を生み、さらに真空の世界を作り出すラングラーの唾。 それが、弾丸として発射される鉄クズをコーティングした。 この世界でラングラーが編み出した、 JJFの究極にして最悪の戦術が始まった。 「ようやく・・・追い詰めたってとこかしら?」 タバサのエア・ハンマーで確実なダメージを受けて膝を突くラングラーを見て、 キュルケはそう呟いた。 「まだ油断できない」 タバサはそれを制するように言い、杖をラングラーに向ける。 キュルケはそれに頷くと、タバサと同様に杖を構える。 二人とも残りの精神力にはあまり余裕が無い。 決着をつけるなら、次しかなかった。 そのときだ。 「しかし・・・お前らは・・・よく頑張ったよ」 ラングラーが二人に声をかけた。 エア・ハンマーをまともに食らった割には、その声に張りがあった。 「・・・どういう意味よ?」 警戒しつつ、キュルケが答える。 「まだハタチにもならねえってのに・・・トライアングルで・・・ オレとここまで・・・やりあえるとはな・・・恐れ入ったよ」 「だから何が言いたいのよ!?」 明らかに追い詰められた状況でありながらも余裕を崩さないラングラーに、 キュルケは得体の知れない恐怖を感じた。 タバサも口こそ開かなかったが、キュルケと同様にそれを感じていた。 「だがな・・・お前らは・・・これから詰まれるんだぜッ!」 瞬間、JJFがリングに残る全ての鉄クズを、部屋中に無差別に撃ち放った。 ドドドドドドドドドドドッ! 放たれた鉄クズは、あるものはキュルケ、タバサ、そしてルイズへと向かい、 またあるものは壁に突き刺さり、またあるものは壁を跳ねた。 タバサは自分たちの方向へ飛んでくるものを正確に見極め、 ウィンド・ブレイクで射線をずらす。 ルイズへと向かうものは、ホワイトスネイクがルイズのベッドをひっくり返し、 それを盾にしてガードした。 タバサはこの防御で、これでラングラーの攻撃が終わったと思った。 自分の方に向かってきた鉄クズ全てに対処しきったからだ。 だが――ラングラーの攻撃はまだ終わっていなかった。 ホワイトスネイクにはそれが分かっていた。 部屋全体にばら撒くような射撃。 ホワイトスネイクもこれでダメージを受けた。 この攻撃における、ラングラーの狙いは―― 「ソイツハ『跳弾』ダ! 警戒シロ!」 ホワイトスネイクが二人に向かって叫ぶ。 だが、それは遅すぎた。 いや、仮に遅くなかったとしてもこの世界には「跳弾」などという言葉は無い。 故にタバサがその言葉の意味を理解し、正確な防御に移る事は不可能だった。 ドシュシュシュシュシュシュッ! 直後、キュルケとタバサは全身に鉄クズの銃撃を受けた。 同時に二人の体から鮮血が飛び散る。 「がはっ・・・・・・」 「っ・・・く・・・・・・」 呻き声を上げながら崩れ落ちる二人。 「キュルケ! タバサ!」 ルイズが悲鳴を上げる。 「そんな・・・・・・なんで・・・・・・」 「『跳弾』ダ。鉄クズヲ撃ツ角度ヲ調節シ、 壁ヤ天井デ鉄クズノ弾丸ガ軌道ヲ変エルヨウニシタノダ」 「な、なによそれ・・・弾丸が壁とか天井とかで跳ね返って、 それがキュルケたちを攻撃したの? そんなの、ありえないわよ!」 「ダガ現実トシテ二人ハ銃撃ヲ食ラッタ。 ソシテ私モ、先程ソレデダメージヲ受ケテイル」 「そんな・・・・・・」 ホワイトスネイクの言葉に、打ちひしがれるルイズ。 「その通り・・・・・・だ。 そして今の弾丸・・・ただ身体に・・・穴が開くだけじゃあ・・・ない。 もっと・・・・・・面白く・・・なる」 「面白クナル・・・ダト?」 「そうだ・・・・・・見ていろ・・・・・・。 奴らの血で、この床と天井に真っ赤な水彩画を描いてやるぞ・・・」 場所は変わってまたトリステイン魔法学院の校庭。 ある者は命がけで戦い、ある者は盗みを働こうとするこの日の夜。 そんな夜に、二人の男女が校庭を歩いていた。 少女の方の名前はモンモランシー。 二つ名は「香水」。 そして一週間前に、恋人のギーシュに二股かけられた本人だ。 そして男の方は―― 「ああ、モンモランシー! 君は本当に美しいよ! 天高く輝くあの双月も、君の前ではその美しさが霞んでしまうほどに! いや・・・きっと彼らもわかっているんだ。 どれだけ輝こうとも君の美しさには敵わないってね。 だからああして輝きを弱めて、君の美しさを引き立てているのさ! きっとそうだよ! 僕の愛しいモンモランシー!」 …一週間前、モンモランシーがいながら二股をかけた、ギーシュその人であった。 そもそも何故最悪な関係に陥っていたはずの二人がこうして一緒に歩いているのか、それを説明せねばなるまい。 事の発端はギーシュがモンモランシーを夜の散歩の誘ったことであった。 ギーシュは二股かけてたことがバレて傍に女の子がいなくなった状態が一週間も続いていた。 それで寂しくなったからモンモランシーに泣きついたのだ。 だが実際に傍に女の子がいなくなる、という状況に陥って、真っ先にモンモランシーのところに来る辺り、 ギーシュとしての本命はモンモランシーなのだろう。多分。 浮気ばっかりしてるけど、多分そうに違いない。多分。 そしてモンモランシーの方も、それまではホワイトスネイクとの決闘で死に掛けたギーシュを心配はしたものの、 二股をかけられたことが思い出されて、あまりギーシュとは一緒にいたくない気分だった。 だが「一週間経ったから許してあげようか」という気持ちと、 やはりギーシュに対するまだ捨てきれない気持ちがあって、夜の散歩を了承した。 そしてさっきからもう10分もの間、ギーシュの歯が浮くようなお世辞をノンストップで聞き続けているのだ。 普通の女の子なら耳が痛くなってくるようなお世辞の数々だが、 モンモランシーには、むしろそれが気分がよく感じられた。 モンモランシーはおだてに弱いタイプだった。 だからこそ、ギーシュが他の女の子にフラフラと近づいて そのままお近づきになってしまうのをその時こそは怒っても、 そのうちすぐに許してしまうのだった。 二股駆けるギーシュがダメダメなのは言うまでも無いことだが、 モンモランシーも何だかんだでダメだった。 でもそうだからこそ、似合いのカップルなのかもしれないが。 ひたすらモンモランシーに愛の言葉を重ねるギーシュ。 それを頬を紅潮させながら聞くモンモランシー。 二人はまだ知らない。 今この瞬間も、この学院の中で死闘が続いていることを。 「くぅっ・・・・・・タバサ・・・大丈夫?」 「・・・大丈夫。まだ、やれる」 「ウソ・・・でしょ、それ・・・。 ギリギリのところで使えた魔法を、殆どあたしを守るために・・・・・・」 「・・・・・・大丈夫、だから・・・・・・」 そう言うタバサの顔は青ざめている。 無理も無い。 タバサが先ほどの攻撃で受けた傷は、鉄クズの直撃が右足に3つ、右腕に2つ。 鉄クズのかすり傷が、脇腹に1つ、肩に1つ。 また、キュルケは鉄クズの直撃が左足に1つ、左腕に1つ。 それのかすり傷が左大腿に一つ、頭に一つ傷が出来ている。 ラングラーの射撃が二人を襲う直前、タバサはウィンド・ブレイクを使っていた。 しかしそれは、魔力を殆ど込める間もなかった弱弱しいものだった。 にもかかわらず、タバサはそれの殆どをキュルケを守るために使った。 そのため彼女が受けたダメージはキュルケのそれよりも、 ずっと多く、そして深いものになったのだ。 傷の激痛で奪われそうになる意識を必死に留めながら、 タバサは思考を回転させる。 このままではまずい。 あの男・・・こちらが思っていたよりも遥かに強かった。 まさか、天井や壁で撃った鉄クズを反射させて、 想定外の方向からこちらを狙うなんて。 さっきのエア・ハンマーでダメージを受けたように見えたのは演技だったのか、 それともダメージを押してあの攻撃を仕掛けてきたか。 いずれにしても、今度は完全にこちらが追い詰められてしまった。 もう一度あの射撃を仕掛けられでも、今の自分ではそれを防御出来ない。 そう考えていると、ふと自分の体に奇妙な違和感を感じた。 体が、軽い。 まるで風に巻き上げられた落ち葉のように、まるで自分の体に重みを感じない。 さっきまで、あの男から受けた傷の激痛で体が鉛のように重かったのに・・・。 いや、違う! 「軽く感じている」などという程度ではない。 自分の体が浮いている! 風も無いのに、何かの力が働いているでも無いのに、 自分の体が宙に浮き上がっている! いや、そればかりではない。 手や足を動かすたびに体がグルグルと回転し、重心が定まらない! これは、一体。 「タ、タバサ・・・こ、これ!」 声がした方を見ると、キュルケの身体も宙に浮き上がり、空中で二転三転している。 一体何が起きた? さっきの弾丸に、何か特別な魔法でも仕掛けたのか? でもこんなことができる魔法は、系統魔法の中には無い。 ならば、こいつが使っているのは――。 「エルフの先住魔法・・・か?」 突然タバサに、ラングラーから声がかかった。 「オレと戦ったものは・・・皆・・・そう言う。 先住の魔法・・・エルフの魔法・・・とな。 当然だ・・・火の魔法・・・風の魔法は・・・使うことすら出来ず・・・ 土の魔法・・・水の魔法は・・・まともなコントロールさえ・・・出来ない。 このオレが・・・・・・『魔法殺し』と・・・呼ばれるのは、そのためだ。 だが・・・オレが使うのは・・・そんなものではない。 それらより強力で・・・それらより凶悪なものだ・・・。 その力で殺されることを・・・誇りに思うがいい・・・・・・」 先住の魔法ではない? だとしたら、一体何がこれを引き起こしている? 考えても考えても、自分に起こったこの現象が説明できない。 とにかく自分の体を固定しなければ。 そう思い、杖を振ってレビテーションを唱え始める。 一体どういう原理で浮き上がっているのかは不明だが、 レビテーションなら身体を魔法で浮かせ、身体を空中に固定できるはずだ。 そう判断してのことだった。 そして、状況が変化したのはその瞬間だった。 傷口から流れ出ていた血の勢いが、突然強くなった。 まるで傷口から血が噴出すように、溢れ出るように流血し始めた。 そして次第にそれすらも通り越し、瞬く間に流血の勢いは強くなり、 まるで噴水のように傷口から出血しているッ! 「こ・・・これは・・・・・・」 「・・・・・・」 自分の身に起こった現象に呆然とするキュルケ。 そして自分の体から血が吹き出るという現実に驚愕したのはタバサも同じだったが、 風のメイジであった彼女にはそれ以上のことが理解できた。 自分の周りから、極端に空気が少なくなっている。 それに呼吸もしにくくなっている。 このままでは窒息してしまう。 それ以前に全身の血液がなくなって、干からびてしまう! どうすれば、どうすればこの状況から抜け出せる! 自分はまだ、死ぬわけにはいかないのに・・・・・・。 そしてその様子を、ルイズも見ていた。 ルイズは、自分を責めていた。 何も出来ないばっかりに守られて、 それで守ってくれる人が死にかけているのに、それでも何も出来ない自分を。 守られていながら、助けることさえ出来ない自分を。 自分が水のメイジだったなら、二人を治療できた。 火や風のメイジだったなら、アイツと戦えた。 土のメイジだったなら、ゴーレムの一つでも錬金して時間稼ぎが出来た。 なのに自分はそのどれでもない。 自分は「ゼロ」だ。 何の魔法も使えない、役立たずの「ゼロ」。 一週間前のギーシュとの決闘は、自分に何か光が見えたように思えた。 爆発しか起きない「ゼロ」の自分でも、 役立たずの「ゼロ」じゃないんだと思えた。 だが現実は違った。 結局自分は何も出来ない、役立たずの「ゼロ」だった。 自分を助けてくれた人が窮地に陥っても、 それに何の助けも出せない「ゼロ」だった。 ルイズにはそれがどうにも許せなくて、そして悔しかった。 悔しさで涙がこぼれそうになった、その時。 「マスター」 自分の前に立っているホワイトスネイクから声がかけられた。 顔はこちらには向いていない。 「・・・なによ。ホワイトスネイク」 こぼれそうになった涙を拭って、ルイズは不機嫌に聞こえるように答える。 「アノ二人ノタメニ命ヲ賭ケラレルカ?」 「・・・当たり前よ。何でそんなこと聞くのよ」 「今アノ現象ハ、アノ二人ヲ中心ニ起コッテイル。 ソシテ二人ヲ助ケルニハ、マスターモアノ近クヘ行カネバナラナイ。 マスターガラング・ラングラーニ殺サレタナラ、二人ノ努力ガ無駄ニナル。 デアル以上、マスターハ私トトモニ行動シ、私ガ護衛シナケレバナラナイ。 故ニマスターモアノ症状ガ出ル空間マデ行カネバナラナイ。 ・・・ソレデモ助ケルノカ?」 「それでも、よ」 ルイズの言葉に、迷いは無かった。 「・・・キュルケトカイウ女ハマスタートハ不仲ダ。 ソシテタバサトカイウ小娘ハ今日初メテ会ッタバカリ。 命ヲ賭ケルニハ、アマリニモ安イ間柄ダ。 ナノニ、何故ソノ二人ノタメニ命ヲ投ゲ出セル? 親友デモ、血族デモナイ相手ニ何故ソコマデデキル?」 それは、ホワイトスネイクにとって率直な疑問だった。 以前ホワイトスネイクがいた世界 ――かつての自身の本体、プッチ神父とともにあった世界でのこと。 あの世界で戦った男――空条承太郎は、 娘を守るために千載一遇の勝機を捨てた。 そしてその空条承太郎の娘、空条徐倫もまた、 父親の記憶のためにプッチ神父を仕留めるための最大の好機を逃した。 何故そのようなことが出来るのか。 それは親子だからだ。 互いに血を分けた存在だからだ、とホワイトスネイクは考えていた。 また、スタンドを探して世界中を巡った旅の中で、 プッチ神父を友の仇、親友の仇として襲うスタンド使いもいた。 そうしなれば、プッチ神父にスタンドを奪われることも、 その後にドロドロにされて死ぬことも無かったのに。 なのに彼らはプッチ神父に挑まざるを得なかった。 挑まなければ、自分の心に決着を付けられなかった。 何故そのようなことが出来るのか。 それは親友だからだ。 互いが互い無くしては生きては行けない存在だからだ、 とまたホワイトスネイクは考えていた。 だが、この状況は違う。 今自分の主人の前で死に掛けている二人の小娘は、 主人の血族でもなければ主人の親友でもない。 なのにこの小さな主人は、そんな二人のために命を賭けると言っている。 何故そんなことが出来る? 何故自分の命をそこまで簡単に扱える? それが、ホワイトスネイクには理解できなかったのだ。 「ソシテ助ケタイ、トイウノハ自己満足カ? ソレトモ偽善カ?」 さらにホワイトスネイクは厳しい問いをぶつける。 「・・・そうかもしれない。 役立たずになりたくないって気持ちが、わたしの中にあるもの。 でもそれは二人を助けない理由には絶対にならない。 だから、助けるのよ。 わたしが助けたいから、助けるの」 それが、ルイズの真摯な思いだった。 確かにキュルケには気に入らないところもある。 タバサって女の子に至っては、助ける義理も何も無い。 それでも、見殺しには出来ない。 だから、助ける。 自分が助けたいから、助ける。 それが、ルイズの答えだった。 「ソウカ」 ホワイトスネイクはそう短く言うと、ルイズに向き直る。 そしてルイズを片手で抱え上げる。 「覚悟ハイイナ?」 「いつでも」 ホワイトスネイクの問いに、ルイズが短く答える。 「承知ッ!」 その答えにホワイトスネイクが力強く応えるッ! そして床を強く蹴り、二人の少女の下へと疾走するッ! 「なッ、なにしてやがるッ!!」 それに驚いたのはラングラーである。 無傷で確保しなければならない相手が自分が作り出した死の空間へと、 何のためらいも無くホワイトスネイクとともに突っ込もうとしているのだ。 このままでは「無傷での確保」は不可能。ならば、阻止するしかないッ! ラングラーは最後の補給を終えたばかりのJJFに腕を構えさせる。 ドンドンドンドンドンドンッ! そしてホワイトスネイクの動きを追うように、 JJFにありったけの鉄クズを撃ち放たせるッ! 計画性のカケラもない行動だった。 だが任務を完遂することの方が、ラングラーには重要だった。 しかしホワイトスネイクは速い。 放たれた鉄クズの半数はホワイトスネイクが通り過ぎた直後の空間を貫き、 ホワイトスネイクにはかすりもせず、 しかし残り半分はホワイトスネイクへと殺到する。 だがホワイトスネイクはそれらを拳で弾き飛ばそうとはしない。 逆にルイズを庇うようにガードを固める。 ドシュシュシュッ! そのホワイトスネイクに、いくつもの鉄クズが突き刺さるッ! その数、4発。 足に、脇腹、腕に、そして頭に着弾し、頭部に命中したものはその一部を吹き飛ばしたッ! しかしホワイトスネイクは止まらないッ! 苦しみもがきながら空中を漂うキュルケとタバサの元へと一直線に駆けるッ! そして、キュルケとタバサを苦しめる症状 ――真空の魔の手が、ルイズにも襲い掛かる。 ルイズの鼻から、突然鼻血が噴出す。 同時に、ルイズの呼吸も苦しくなってくる。 ホワイトスネイクが自身の腕からDISCを抜き取ったのはその瞬間だった。 そして抜き取ったDISCを間髪いれずにルイズの頭部に差し込むッ! 「命令スル。『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』」 ホワイトスネイクが、静かにそう命令する。 と同時に、ルイズの鼻血が止まった。 外気圧と体内気圧の差のために体内から血液が押し出されるのを、 この命令によって防いだのだ。 しかし、ルイズの呼吸が苦しいのは変わらない。 ルイズの周囲に殆ど酸素が存在しない状況を変えることは、 ホワイトスネイクのDISCの命令ではできないからだ。 しかし、血液が全て体外に押し出されてミイラになるよりは、 まだ死ぬのが遅い。 その僅かなタイムラグに、ホワイトスネイクは全てを賭けたのだ。 やがて、酸欠でルイズが意識を手放す。 ルイズは自分の意識が真っ白になっていくのを感じながら、 ホワイトスネイクが、二人を救ってくれることを祈った。 そしてホワイトスネイクは、キュルケとタバサの元へ到達した。 スデに意識を失っていた二人に、ルイズにしたものと同じ命令を差し込む。 後数秒でも遅れていたならば二人の命は無かっただろう。 しかしこれで二人の命はもう1、2分は稼いだ。 あとは・・・ラング・ラングラーを倒すのみ。 そう決意してキュルケとタバサを背負うと、ラングラーのほうへ振り向く。 そして振り向いた先には、驚愕に顔を歪めるラングラーがいた。 「バカな・・・真空の中で・・・何故・・・血を吹き出さねえ・・・。 ホワイトスネイク・・・テメー一体・・・何を、しやがった・・・」 「何ヲシタカ・・・カ。ソレヲ貴様ガ知ル必要ハナイナ。 何故ナラ貴様ハココデ死ヌカラダ・・・ラング・ラングラー。 貴様ノ無重力ノ能力ガ作リ出シタ真空デナ・・・・・・。」 そう言い終わるや否や、ラングラーに向けて突進するホワイトスネイク。 真空の発生源であるキュルケとタバサはホワイトスネイクに担がれているッ! つまり、この状況は―― 「テメーッ! オレが作った真空で、オレを攻撃する気かッ!」 ホワイトスネイクの目論見を理解したラングラーは、すかさず後方に下がる。 だがすぐに壁に背がぶつかる。 もう後ろには下がれない。 正面から迫るホワイトスネイクは、 自分を真空の範囲に捉えるまであと数歩の位置。 ならば―― 「ジャンピン・ジャック・フラァァァッシュッ!!」 咆哮とともにJJFがラングラーの正面に回りこむ。 そしてコンマ数秒単位で腕を構え、ホワイトスネイクへと向けるッ! 「くらえッ!!」 ドンドン! そして、その腕から鉄クズを撃ち放つ。 だが狙いは甘かった。 大半はホワイトスネイクに当たらず、その周囲へと逸れていった。 ラングラーが一瞬抱いた真空への恐怖が、 その照準を正確なものにしなかったのだ。 だが、3つ。 それだけの数の鉄クズは、ホワイトスネイクへと向かった。 しかもその全てが、ホワイトスネイクへの直撃コース。 だがホワイトスネイクは避けようともしない。 自分を敵の弾丸が貫くのを承知で、 真正面からラングラーのいる方向へと突っ込むッ! ドシュシュッ! そしてホワイトスネイクの胴体を、3つの鉄クズが撃ち貫く。 ホワイトスネイクの、膝が落ちる。 勝った、とラングラーは感じた。 だが、ホワイトスネイクは止まらなかった。 落ちかけた膝を無理やり引き上げ、床を蹴り、 レスラーがタックルをかけるようにラングラーへと襲い掛かるッ! ホワイトスネイクはスタンドである。 そして今のホワイトスネイクは、 本体の状態に一切左右されないスタンドであるッ! そのため人間ならば致命傷の攻撃でも、まだ十分に活動可能ッ! 「バカなッ! こいつ、何故止まらないッ!?」 それを知らないラングラーは驚愕のままにタックルをモロに食らい、 壁にたたきつけられる。 JJFで防御する余裕すらなかった。 そして、真空の範囲にラングラーが入った。 真空が、ラングラーに襲い掛かるッ! 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 時間の経過のために、より強力になった真空がラングラーを襲う。 そして、ラングラーの体の組織を次々と破壊してゆくッ! (マ・・・マズイ・・・ぞ・・・・・。このままじゃあ・・・オレが・・・ヤバイッ! 壁に押さえつけられた・・・この体勢じゃあ・・・逃げられねえッ! くッ・・・こうなったらッ!!) 完全に追い詰められた状況ッ! そしてラングラーが、そこから脱出を図るッ! 「ジャンピン・ジャック・フラッシューーーーーーーーッ!」 ラングラーの絶叫とともに、JJFが部屋の壁に拳のラッシュを叩き込むッ! 追い詰められ、生へとしがみつこうとする精神によって昂ぶり強化された拳は、 壁を一瞬にしてベコベコに破壊し、そしてひび割れさせていくッ! そしてラッシュが始まってから一秒経ったか経たないか、それだけの時間で、壁に大穴が空いた。 そしてラングラーの体が、その後ろから押さえつけるホワイトスネイクのパワーに押され、ルイズの部屋から空中に放り出された。 その瞬間。 「ジャンピン・ジャック・フラッシュ解除ォーーーーーーーーーーーーーッ!!」 ラングラーの絶叫とともに真空が解除されるッ! そして周囲の気圧は突然正常に戻り、ホワイトスネイクとラングラーの身体は、 二人を取り囲んでいた真空地帯へ吹き込んだ突風に、 木の葉のように吹き飛ばされるッ! ラングラーの身体は上空へ吹き飛ばされ、 ホワイトスネイクの身体は地上へと、一気に叩き落されるッ! しかしホワイトスネイクは抱きかかえる3人の身体を手放しはしないッ! 手放す前に、やらねばならないことがあるからだ。 (解除・・・ダトッ!? マズイゾッ! コノママデハ、 外気圧ニマスタータチノ体ガ潰サレルッ! ソノ前ニッ!) ホワイトスネイクは素早くルイズの頭部から命令のDISCを抜き取る。 そしてキュルケ、タバサの頭部からも命令のDISCを抜き取り、3人の体内気圧を正常に戻す。 だがまだ油断は出来ない。 地上が、眼前に迫っている。 今の加速した状態で地面に叩きつけられれば、並の人間はただではすまない。 ましてや今の状況では重傷を負った人間が二人もいるのだ。 ホワイトスネイクが手を離し、勢いのままに地面に激突したならば、間違いなく死ぬ。 ホワイトスネイクは何も持たない状態なら自由に空中を移動できる。 そして軽いものならば抱えたままで空中を移動できる。 だが今ホワイトスネイクが抱え、背負うのは三人の人間。 抱えたまま空中に留まるのは不可能だ。 そうである以上、着地はホワイトスネイクがやらねばならない。 しかしホワイトスネイクの両足はJJFの射撃でダメージを受けている。 着地の衝撃に耐えられるかどうかは怪しい。 出来るか。 ホワイトスネイクは現在の自分の状況に相談し、そして覚悟を決めた。 その直後、ホワイトスネイクは3人を抱えたまま、地面に着地した。 そして着地の衝撃がホワイトスネイクの両足を襲う。 無重力解除による風圧、そして人間3人分の重力が生んだ衝撃が、ホワイトスネイクの足をズタズタに破壊してゆく。 だがホワイトスネイクは膝を突かない。 膝を突かず、衝撃に耐え、着地したままの状態を保ち続ける。 そして、耐え切った。 そのことを実感すると、 ホワイトスネイクは3人の身体をそっと地面に横たえた。 ホワイトスネイクの身体に新たな衝撃が走ったのは、その瞬間だった。 衝撃の発生源は腹部。 そこに目を向ける。 自分の腹部から、握り拳が突き出ているのが見えた。 そして、やられた、と思った。 JJFの拳が、背後からホワイトスネイクの身体を貫いていた。 空中に飛ばされたラングラーは、手足の吸盤で校舎の壁に張り付き、 風圧に耐えていた。 そして耐え切ると、間髪いれずに空中からホワイトスネイクの背後に迫った。 落下の音、衝撃は吸盤で吸収し、ホワイトスネイクに気づかれることは無かった。 そして、あの一撃をホワイトスネイクに叩き込んだ。 ホワイトスネイクの膝が、がくりと落ちる。 もはや両足で立つこともできない。 そしてボロボロの両手では、手刀を使うことも出来ない。 ホワイトスネイクの身体は、もう戦える身体ではなかった。 「これで・・・テメーは・・・もう・・・戦えねえ。 あとは・・・ガキを・・・頂いていく・・・だけだ。 だが・・・・・・その前に・・・テメーは破壊する。 オレを散々ナメてくれたテメーを・・・生かしておくつもりはねえッ!」 そう言いつつ、JJFの拳をホワイトスネイクの腹から引き抜くラングラー。 それと同時にホワイトスネイクの体が崩れ落ちる。 ダメージは、あまりにも大きかった。 これ以上戦えぬほどに、これ以上立つこともできぬほどに。 そして床に倒れこむホワイトスネイクの頭部に、ラングラーはJJFの拳の狙いを定める。 「これで終わりだッ! 今度こそ、ここで死ねッ!!」 そして、JJFの拳が、ホワイトスネイクの頭部へ振り下ろされる。 「勝ったッ!!」 ラングラーが今度こそ勝利を確信し、叫んだ。 ドグシャアッ! ドシュンッ! 直後、二つの音が交錯する。 JJFの拳がホワイトスネイクを破壊する音、 そしてそれとは別の音が校庭に響いた。 そして視界が真っ暗になる。 何だ? とラングラーは一瞬首を捻りかける。 捻りかけて、理解した。 自分の額に、あの忌々しいDISCが突き刺さっている。 そのDISCに目隠しされているのだ、と。 そしてそうだ。 「これ」はさっき見ていた。 これはホワイトスネイクが、あの三人のガキの頭から抜き取ったものだ。 ホワイトスネイクはこのDISCで、自分の真空から三人を守っていた。 しかし、だとしたらその効果は一体・・・。 「ソノDISCノ効果・・・教エテヤロウ」 「!!??」 バカな!? 何故ホワイトスネイクが生きている!? ヤツの頭部は、自分のJJFで完全に破壊したハズ。 手ごたえも十分にあった! …いや、本当にそうだったのか? 本当に、自分が破壊したのはヤツの頭部だったのか? インパクトの瞬間、オレはヤツのDISCで目隠しされたんだ。 だとしたら、そのときに・・・まさか・・・・・・。 「『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・ダ。 ソレデ何ガ起コルカ・・・・・・貴様ニハ・・・スグ分カル」 暗闇の中で、ホワイトスネイクがこちらの意思とは関係ナシに喋り続ける。 『体内気圧を限りなくゼロに近いレベルまで、一気に低下させろ』・・・だと? …何だとッ!? じゃあまさか、これからオレはッ!? 「感ヅイタヨウダナ・・・。貴様ノ体ハコレカラ・・・外気圧ニ潰サレテ、 ペシャンコニナル。 セイゼイソレマデノ間、残サレタ命ヲ楽シメ・・・・・・」 その言葉の直後、ラングラーの体に異変が起こる。 まず、息が出来なくなった。 正確には、肺から空気が一気に押し出されたッ! そして破壊はさらに進行するッ! ラングラーの体はあっという間に圧縮されていき、 ラングラーの全身の穴という穴から血が噴出すッ! 「ガッ・・・ゴボ・・・・・・ガボ、ゴッ・・・・・・」 声にならない声を上げ、ラングラーが呻く。 呻きながらも、JJFに指示を出す。 自分をこんな目に合わせた奴らを、せめて一人でも道連れにするために・・・。 だが、それもすぐに止められた。 JJFの腕が、動かない。 ホワイトスネイクがJJFの両腕をガッチリと捕まえ、その腕輪の照準が三人の少女にそして自分へと向かぬよう、 そして照準が誰もいない上空へ向くように押さえ込むッ! 「ア・・・アガ・・・ゴバ、ガ・・・ガボバ・・・・・・」 しかしラングラーは止まらない。 JJFへの指示を止めはしない。 そして主人のダメージに従ってボロボロとその身を崩壊させていくJJFは、 主人の命令に忠実に、最後の足掻きを見せたッ! ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!! それは戦いの序盤でホワイトスネイクに対して行った、マシンガンのような集中射撃。 JJFはそれが自分の最後の輝きであるかのように、ホワイトスネイクに押さえつけられたまま、上空に向かって撃ち続けた。 今までで最大の威力を持った、鉄クズの射撃だった。 撃ち放たれた無数の鉄クズはその大半が校舎に当たり、 そしてそれらを抉り、無数のひびを入れた。 巨大なゴーレムの一撃ですら破壊できない壁に、目に見える形で損傷を与えた。 そして残弾が完全に尽きたのと同時に、 ラング・ラングラーは全身の血を外気圧に絞り取られて絶命した。 ジャンピン・ジャック・フラッシュの姿は、もうその傍らには無かった。 「終ワッタ・・・・・・カ・・・・・・」 ラングラーが死んだのを確認し、ホワイトスネイクはそう呟いた。 そして周りを見回す。 見回して、ひどい有様だと思った。 周囲一体がラングラーの血で染まって真っ赤になっている。 ルイズ、キュルケ、タバサの三人も例外ではない。 全員の衣服が、血で真っ赤になっていた。 もっともキュルケとタバサの衣服は彼女達自身の血でスデに赤く染まっていたが。 (シカシ・・・マズイナ。今ノ私ハ、ホトンド行動不能。 ソレニ助ケヲ呼ブコトモママナラナイ。 マスターハマダ大丈夫ダガ・・・コノ二人ハ応急処置ガ必要ダ。 クソッ・・・・・・ドウスル・・・・・・?) 自身も再起不能寸前でありながらも、冷静に状況を判断するホワイトスネイク。 その時―― 「ルイズの使い魔君ッ! 君の命がけの行動、僕は敬意を表するッ!!」 バカみたいにでかくて、それでいて妙に気取った声が聞こえてきた。 どこか聞き覚えがあった声だ、と思いながらホワイトスネイクがそちらを見る。 「ちょっとギーシュ! あんた分かってるの? あいつはあなたを殺しかけたようなやつなのよ?」 「黙っていてくれモンモランシー。僕は今猛烈に感動しているんだ!」 声の主はやっぱりギーシュだった。 そしてその後ろから、モンモランシーがギーシュを引きとめようとしている。 しかしギーシュはそれを引きずるようにしてこっちにやってきた。 「・・・・・・何シニ来タ」 ジト目でギーシュを見ながら言うホワイトスネイク。 「そんなことを連れないことを言わないでくれ、使い魔君。 僕は君の命がけの戦いの一部始終を見ていた。 それで・・・感動したんだ! 不届き者から三人のレディーを守り、 満身創痍になりながらも勝利した君の姿に! そして実感したよ! 君と僕は似たもの同士だったんだ! 君は一週間前のあの日、僕と決闘したろう? それが何故なのか、ずっと気になっていたんだ。 でもそれが分かったよ! 君は君の主人であるルイズのために、 レディーのために戦ったんだね! あのメイドを僕の勝手から守ったのも、 レディーを守るという君の新年に基づいたものだったと分かったんだよ! はっはっは! そんな神妙な顔をしないでくれ! 何も言わずとも分かる! 君のその行動こそが君の精神のあkガボゴババゴボ・・・・・・」 延々と喋り捲っていたギーシュが、突然彼を包み込んだ水によって黙らされた。 やったのはモンモランシーである。 しかしギーシュもなんと言うか、相当にアレだ。 一週間前に自分を危うく殺すところだった相手にここまでフレンドリーになれてしまうとは。 お調子者というべきか、能天気というべきか、とにかく色々と心配だ。 そしてギーシュを黙らせたモンモランシーがその前に出て、 じろりとホワイトスネイクをにらむ。 ホワイトスネイクも、それを正面から見返す。 「・・・あんたがギーシュに決闘でしたこと。私は忘れて無いわ。 でも・・・・・・」 そういって、地面に横たわる三人に目を向けると、短くルーンを唱える。 すると、キュルケとタバサの傷が、溶けるようにして浅くなっていく。 水のメイジにしか使えない、「治癒」の魔法だ。 ホワイトスネイクは驚いてモンモランシーを見る。 「この三人がケガをしてるのは別の話よ。 応急処置をしてくれる人を探してたんでしょ? ・・・だったら私がしてあげるわよ。 この三人のケガはどれも致命傷じゃないし、 水のラインメイジの私なら応急処置が出来る。 ただ、キュルケとこの青髪の女の子は相当に弱ってるから、 魔法薬での治療が必要になるけど。 ・・・別に、あんたがしたことを許したわけじゃないんだからね。 勘違いしないでよ」 「・・・覚エテオク」 ホワイトスネイクがそれだけ言うと、 モンモランシーはぷい、とそっぽを向いてギーシュのほうへ戻っていった。 そのギーシュが、何やらゴボゴボ言っている。 「どうしたのよ、ギーシュ?」 「ばべ! ばべぼびべぐべぼ!」 「・・・何言ってるかわかんないわよ、ギーシュ」 「ばばらばればぼ! ぼぼばび! びびぼぶびぼごべば!」 モンモランシーの魔法で水攻めにされたまま、 ギーシュが指を差しながら何か言っている。 だがモンモランシーには何が言いたいのか全く理解できない。 かろうじて、何がしたいかが理解できたホワイトスネイクが、 ギーシュが指差す先を見ると―― 「・・・・・・何ダ、アレハ?」 そこには、全長30メイルは下らない、巨大なゴーレムがいた。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1340.html
(何だ、この状況は?) 本塔の壁に背中を預けたヴァニラは呆れたように目の前の光景を眺めている 真剣な面持ちのルイズとキュルケが杖を構え、屋上には水色の頭髪を持つ眼鏡の少女 、タバサというらしい――がその使い魔の竜に跨っているのが見える そして屋上から吊り下げられたロープには 「おーい、下ろしやがれ娘ッ子!」 デルフリンガーがぶら下がっていた 亜空の使い魔――デルフの受難・フォーエバー 場面を数分前にバイツァーダストッ! 街から帰ったヴァニラがルイズの部屋でデルフに尋問もとい質問をしているとキュル ケが小さな少女を伴い部屋に飛び込んできた 「ハーイ、ダーリン!プレゼントよ」 そういって罵声を並び立てるルイズを無視して差し出したのはルイズの買えなかった シュペー卿とやらの剣、話によると二人が店から出た後で入れ違いに買っていったらしい (ストーカーというやつか?) 当然ルイズは烈火の如く怒りキュルケはそれに飄々と返す、ついでにキュルケについてきた少女はヴァニラが踏みつけているデルフをじっと眺めている (何だ、この状況は?) 数分後軽いデジャヴを感じるであろう状況に平和的な質問を諦め事の成り行きを見守る ヴァニラが考えるのを止めかけたところでどうやら御互い決闘してどちらの剣を使ってもらうか決めるということで落ち着いたようだ 「それでなんでオレが吊られてるんだよォ!?」 「決闘、危険」 竜に跨ったタバサがぽつりとデルフの疑問に答えるが当然ながら納得できないらしくまだ喚き散らす しかし無常にも二人の準備は整ったらしくキュルケがタバサへ合図を送る 「いいわねヴァリエール、魔法であの剣を落とした方が勝ち。ハンデとして先行は譲ってあげるわ」 「ふ、ふん!後で後悔させてやるんだから・・・」 精一杯の虚勢を張るルイズを尻目にキュルケの合図を受けたタバサはデルフを思いっきり揺らす 「ゆーらーすーなーッ!吐く!絶対吐く!」 哀れ左右に振り子運動を始めたデルフが盛大に抗議するが誰も取り合わない そもそも剣が何を吐くというのだろう、錆? 「煩いわね、集中できないから黙りなさいッ!」 そういうとルイズはゆっくりと杖を掲げ振り子運動を続けるデルフへと狙いを定める 色んな意味でルイズの魔法に生死がかかっているデルフはごくりと息を飲み柄にも無く神に祈りを捧げる その神の御名はイタリア語で御衣には所々ハートマークがあしらってあるのだがあまり関係ない 「・・・・ファイアーボール!」 「ひッ!?」 裂帛の気合と共にルイズが叫び、放たれた魔法、もちろんファイアーボールではなく失敗魔法――はデルフの脇を掠め本塔の壁にぶち当たると爆発を起こし、塔の壁面に亀裂が走った 「てめ娘ッ子!オレを殺す気か!?」 爆風で勢いを増して揺れるデルフが抗議するが誰も聞いちゃいない 「あらヴァリエール、ロープじゃなくて壁を壊してどうする気?どうせならあのオンボロに当てて壊しちゃえばよかったのに」 悔しそうに拳を握り、自分を睨むルイズを一頻りからかうとキュルケは狩人の如くデルフを吊るしたロープを見据える 「見てなさいヴァリエール」 ロープはルイズの挑戦した時より激しく揺れていたがキュルケはゆっくりと狙いを定めると余裕の表情で短いルーンを唱え、手馴れた仕草で杖を突き出す 「ファイアーボール!」 杖の先から出たメロンほどの大きさの火球は狙いを違わずロープを焼き切り、当然ながらデルフは自由落下を満喫する羽目となる 「ちょっと待てーーーー!この高さは無理無理無理無理無理無理ィッ!!」 ラッシュの速さ比べでもするような奇声を上げて落ちるデルフを地面スレスレでヴァニラが受け止める 「た、助かったぜ相棒・・・・」 「誰が相棒だ、話を聞く前に壊れられても困る」 「それでも許す、相棒だからな」 微妙に噛み合っていない遣り取りをする一人と一本だが 「ねぇダーリン、私が買ったんだからそのオンボロは捨ててこっちを使って頂戴な」 しなをつくったキュルケがヴァニラの手からデルフを奪うとがっくりと膝をつき、項垂れているルイズの方へと放り投げてしまった 「ちょ、ちょっとキュルケ!危ないじゃないの!?」 目の前にザックリと突き刺さったデルフに思わず小用を滲ませそうになったルイズはキュルケに詰め寄る。と、不意に月が翳る 「へ?」 「な!?」 「ふぇ?」 キュルケ、ヴァニラ、ルイズの順番に上を見上げると、そこには30メイル程の巨大なゴーレムが聳え立ち、その拳を振り上げていた To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/998.html
「決闘だ」 デルフリンガーを買いに行ってサボった事をコルッパゲに怒られた翌日。 朝の食堂でギーシュが億泰に言ってきた言葉がコレだった。 それを聞いてにわかに周囲は白熱しだし、ルイズとシエスタが頭を抱える。 「よし!散れ!散れ!散れ!散れ!散れ!散れ!」 「残れ!残れ!残れ!残れ!残れ!残れ!残れ!三日だけ!」 「たかだか平民に決闘て……常識的に考えろよギーシュ」 「いやいや、ここは貴族が上!平民が下!を植えつけるべきだろ」 「おとなしくナンパしてろギーシュ」 一方、億泰とデルフリンガーは訳の分からない、という顔をしていた。 「なんでだ?」 「いきなりなんでぇ、貴族の坊主」 一斉に全員がコケた。 「な、なんでもないだろう! 昨日僕を気持ち良くなる位に清々しくボコボコにしておいて! 魔法さえ使えずに負けたのは僕のプライドが許さない、だから正々堂々決闘だ!」 「はぁ……まーいーけどよ」 「よし、ならばヴェストリの広場で待っている!すぐに来るんだ!」 そう言うなりギーシュはさっさと出て行った。 「ワザワザ売られた喧嘩買ってどうすんのよこのバカ! あー、もう!剣は確かに買ってあげたけどね。 しなくていいならしない方選びなさいよ!」 「ほんと、本当です!バカです億泰さん!」 「確かにオレは頭悪いけどよォ~~、『罪』ってのはよぉ~そうなるような事をしてりゃあよぉ~ どっかから廻りまわって『罰』がやって来る物だからなぁ~ オレのした事の結果なら受けてやるのが道理ってもんよ」 そう言うと、唖然とする二人を置いて 決闘の見物へ行こうとする集団について億泰も歩き出す。 その背中に、ルイズは一言だけ声をかけた。 「貴族の決闘は杖を落とした方が負けよ。 完全に倒す必要なんて無いんだから」 「あの……ミス・ヴァリエール?」 「なに?」 「億泰さんって本当にただの平民なんですか?」 「私にもわかんない……」 「そうですか……」 やがて通路を曲がって億泰の姿が消えたころ、二人はそう言葉を交わした。 「さあ諸君!決闘だ!」 いつの間にか集まってきた群集でごった返すヴェストリの広場にギーシュの声が響く。 普段は閑散としたこの広場だが、今は一種の熱気に満ちている。 「決闘っていうか雪辱戦?」 「復讐?」 が、決闘の挨拶で湧き上がる歓声には幾分疑問の声が混じっている。 白熱というには随分と足りないようだ。 だが、ギーシュはそんなのは聞いていない事にした。聞きたくなかった。 「よく来てくれたね……感謝するよ。 今度は魔法を使わせて貰う、もう負けはしないさ。 さあ、君も剣を抜きたまえ」 華麗にスルーする事に成功したギーシュは薔薇の造花を振るい、花びらを一枚地面に落とす。 舞う花びらは地面に落ちると、甲冑を着た女戦士の像へと変わった。 朝日を受けて青銅でできたその体がきらめいている。 「別にオレはこのままでいーぜ? さっさとかかってきなよ」 「いや、相棒!抜けよ!抜いてくれよ!使ってくれよ!」 一方、対峙する億泰は余裕の表情だった。 むしろ武器のデルフリンガーの方が余裕が無いくらいだ。 本来貴族のギーシュが浮かべるべき表情に、ギーシュは何故か一抹の不安を覚える。 「強がりかい? 僕は昨日の負けを清算できればいいんだ。 二つ名『青銅』の名の通り、青銅のゴーレム『ワルキューレ』でお相手しよう」 女戦士のゴーレムが、億泰へと突っ込んでくる。 その右手を振り上げ、まさに鉄槌のごとく腕を振り下ろす……! 「『ザ・ハンド』!」 億泰がその名を呼ぶやいなや、どんな腕よりも恐ろしい右腕がワルキューレを抉りとった。 独特の音が辺りに響き、右腕から胸を通り、反対側まで『削り取られた』ワルキューレが静かに倒れる。 「オメーもマジならよォー、こっちもマジにやらねーと失礼ってモンだよな? だから、マジになるぜェ~~~~!」 億泰の声が、その様子に静まった広場に響く。 それを皮切りに観衆がざわめきはじめる。 「な、なんだあの平民!?何を?」 「まさか、魔法を!」 「いや、杖どころかたった一言しか言ってなかったぞ!?」 「先住魔法か!?」 「いや、でもあの平民から出てる『もや』みたいなのは一体!?」 ギーシュは混乱していた。 当初の予定では一体のワルキューレで適当に翻弄して土下座して謝らせるだけで終わらせるつもりだった。 そんでもってその勢いでモンモランシーとよりを戻すつもりでさえいた。 平民だというのに何の遠慮もなくブン殴ってきた億泰の性格に、少なからず好感も持っていた。 貴族と平民の間の絶対的な差も考えの根底に根ざしていた。 しかし、アレはなんなのだ。 億泰から出ている『もや』のような何か。 人型をとっているらしいが、何故か空気のゆらぎ程度にしか見る事のできない何か。 それが、一発でワルキューレを『切り裂いた』。 そうとしか思えなかった。 「一体何をしたんだ使い魔!? その『もや』みたいな物は何なんだ!」 「そうだぜ相棒!オメー一体何を!?」 億泰は最初から全く変わらないポーズでギーシュへと目を向ける。 デルフリンガーについては後で説明すればいいかな、と思ってあえて無視した。 「ほー、完全じゃあねーみてーだが見えてンのか。 世界が違うからなのかなー、中途半端みてーだけど。 ま!考えると頭痛くなるしやめとくぜ」 「見え……? だ、だからその正体は一体!?」 「『魔法じゃあねえ』。そこまでだ。それ以上親切に教えるバカはいねーよ。 そんなくれーで自分から吹っかけた喧嘩中断するってーのか? ほら、近づいてきなよ」 「わ、ワルキューレ!」 一歩踏み出した億泰に、あわててギーシュが薔薇を振る。 花びらが溢れ、六体のワルキューレが現れた。 そして、地面から更に錬金された武器を手に掴む。 もう余裕とかちょいととかいうのは無しだ。 目の前に居るのはただの平民ではない。 メイジ、それも自分よりも格上を相手にするつもりでも良いのかもしれない。 「やれ、ワルキューレ!」 二体のワルキューレが左右から億泰へと切りかかる。 タイミングも完全に同時、避ける事も受け止めることもできない威力で振り下ろされる剣。 しかし、ほれっという億泰の声と共に片方の頭が消え去り、もう一体が物凄い力で倒される。 倒されたワルキューレの顔には足の形が深々とつけられていて、蹴られたのだと分かった。 「ん~、金属の塊にしちゃー予想外のスピードだけどよォ~~~。 承太郎さんの『スタープラチナ』やクソッタレの『チリ・ペッパー』はおろか…… 俺の『ザ・ハンド』や康一の『act3』よりもおせえよ」 そう言うのと同時に『もや』が倒されたワルキューレの頭を踏み砕く。 「そういやよー、オメーシエスタにまだ謝ってなかったよな? 傷ついたレディが二人とか言ってたけどよォー、 どー見てもあの時一番傷ついてたのはシエスタだよなー! 俺が勝ったらちゃんと謝ってもらうぜェー!」 「っ!」 ギーシュが杖を振り、砕かれたワルキューレの破片を『レビテーション』で持ち上げる。 それを億泰の方へと勢いを付けて放り、更に四体のワルキューレで同時攻撃を仕掛けた! 「真正面から何体来ても無駄だぜェ~! 削り取ってやる!」 「フ、ただ真正面から突っ込むだけだとでも思ったのかい! 『錬金』を食らえ!」 ギーシュの本命はワルキューレによる攻撃ではなく、『破片』の方だった。 ワルキューレが三体破壊された所に、青銅の塊が『錬金』されて砂の塊に変わり億泰の顔へと襲い掛かる! 「う……イデェェエェ!」 思いっきり引っかぶった億泰は目を瞑ったまま『ザ・ハンド』の腕を振り下ろす。 しかし、その腕が最後の敵を削り取ることはできなかった。 ただ、舞う砂を削って空間を作っただけだ。 それを見てギーシュはニヤリと笑みを浮かべる。 「そして!この砂で理解ができた! 君のその力!大体人の姿をしているがどうやら殆ど遠くへは行けないな! 行けるならば最初から僕を攻撃していた! そして、右腕にさえ気をつければ怖くないようだ!」 『ザ・ハンド』の右腕を逃れたワルキューレが億泰へと剣を突き立てようとする。 「空振りした所ならこの剣は避けられまい!勝った! アホの使い魔、完!」 喜びながら電波を受信したギーシュだったが、その喜びは億泰の余裕タップリの声に中断される。 「五十点って所だなァ。 甘いぜオメーは。空振りしたって『空間を削っている』んだぜ! そしてェ、削った空間は閉じ……オメーは最初から全く動いてね~~~」 「何を言って……ハッ!」 その瞬間、ギーシュの腕から杖がすっぽ抜け、億泰の手に収まった。 同時に、ワルキューレの動きが止まり、不自然な姿勢のワルキューレはバランスを崩して横へ倒れる。 「瞬間移動って奴さァ~~~」 その様子を見て観衆は沸いた。 急に広場がざわめきだす。 「へ、平民が杖を奪ったぞ!?」 「って事はギーシュの負けか!」 「俺……ひょっとして要らない子か?」 デルフリンガーの嘆きはそっと広場の騒ぎに掻き消えた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/39.html
魔法学校学院長室、ドッピオは決闘をしてからたまにここに来たりします 点前では使い魔の中で不思議な力を使うという噂が広まり学院長自らが調べるためと言うものですが ドッピオと学院長オスマン自身はここにとっての異世界、地球の話をしていることが多いのです 最初にドッピオの不思議な力、スタンドについても 「まあわしらには見えんし悪用さえしなければの。ただしまた決闘があるなら直接、貴族をそれで殴るのは勘弁しとくれ」 などといってお仕舞いでした 今日もまた異世界についての話をしていますが主だった事が話しきったので会話は弾みません 「おお、そうじゃ。お主の世界の人間がおったかもしれん」 会話を弾ませようとオスマン氏がとても重要なことをさらっと言いました 「そうですか・・・って、ええ?!」 さらっと言われたもので聞き逃しそうになりましたがそんな重要なことは聞き逃せません 「どこだかは知らんが「元の世界に帰りたい」と言ってた者がおったんじゃよ。おそらくお主と同じ世界だとは思うのじゃが」 「その人は今どこに?」 「死んだよ・・・。わしを助けた時には酷いケガでの、死ぬ間際まで元の世界に帰りたいとうわごとのように繰り返しておった・・・」 「助けた?」 「・・・ちいっとばかし爺の昔話に付き合ってくれるか?」 「もう30年も前の話なのかのう・・・ ある日わしは森にとある秘薬の材料を探しに行っていたんじゃよ しかし途中ワイバーンに襲われたんじゃ 死にそうだったところにその者が一撃でワイバーンを粉砕して助かったんじゃが」 「・・・・・・・」 「そのときにワイバーンを倒した一撃の反動が決定打になったのかその後は先に言ったとおりじゃ」 「すいません。いやな思い出を話させてしまって」 「なに言っとるんじゃ。爺に遠慮は不必要じゃよ」 そう言ってオスマンは紅茶を手に取った。話の最中にミス・ロングビルがおいてくれたものだ ドッピオも紅茶を口につけて話の一区切りを入れていた 「いただきます」 紅茶に口を付け一口飲むとドッピオは考えを巡らせ質問します 「なにか遺品とか残ってないんですか?」 「うむ、「破壊の杖」と言う彼の所持品だったものがある…」 ガシャン・・・ 破壊音はミス・ロングビルのポットを落とした音でした 「し、失礼しました。すぐに掃除を」 動揺しているのかその動きには落ち着きが無かった 「彼がわしを助ける時に使った魔法の杖らしきものなんじゃが・・・ 余りの破壊力の為この学院長室の下にある宝物庫にしまってあるのじゃよ」 「見れませんか?」 「鍵なくしちゃって・・・ゴメンネ!!」 手を合わせ片目を瞑る500歳にカップを投げたくなる衝動を押さえるドッピオでした 「魔法で何とかならないんですか?」 「スクエアクラスのメイジ数人は欲しいからのぉ・・・だがもしかしたら・・・」 「何か名案があるんですか?」 「壁をぶち抜けばいけるかも?」 「やっていいならやりますけど・・・」 キング・クリムゾンのパワーなら可能と考えたドッピオの考えは 「絶対ダメ!!」 両腕でバッテンを作った爺にさえぎられてしまうのでした 「なら、言わないでくださいよ。でもまあ、魔法が使える杖なんか僕の世界には存在しないから関係ないですね」 そう言いドッピオは紅茶を飲み干します。出された以上余す訳にはいきません 「お世話になりました。また来る時は有力な情報をお願いします」 「まぁそう焦るな若いの。また来い」 「仲が宜しいのですね」 ニッコリ微笑みながらオスマンに紅茶のお代わりを注ぐロングビル 「ほっほっ、なかなかおもしろいやつでのぉ。あいつと話していると若い頃を思い出すわい」 長い髭を触りながら楽しそうに話すオスマン 「それは良いことですね、オールド・オスマン。しかし人のお尻を触りながら言っても格好良さは三十分の一ですよ」 「痛て!!」 秘書にセクハラを軽くあしらわれているオスマンには学院長としての威厳もクソもありませんでした 9へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/969.html
(やっぱりやりすぎだったかしら…) ルイズは己の使い魔を見て考える。 食堂から出てきたあとから、ずっと元気がない『平民』 …パンナコッタ・フーゴのことを。 教室の床に座り込み、膝を抱えて譫言を呟いているばかり…。 あの食事は『主人』と『使い魔』の違いを理解させるために 用意させたのだが、それが予想以上に効いてしまっているようだった。 粗末な食事。当然不満がでてくるだろうが、そこに寛大な主人が 施しを分け与え、主従関係を強固なものにするという計画だったのだが…。 まさかあれを我慢できるだなんて誰が想像できるだろうか!? (何とかしないといけない!…のかな?) ルイズは少々複雑な感情を抱いた…。 『紫霞の使い魔』 第四話 【そいつの名は『ゼロ』】 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね」 中年の女教師 ミセス・シュヴルーズは教室を見回すと、満足そうに微笑んだ。 視線の先にはサラマンダー、バグベアー、スキュア、カラス、大ヘビ、フクロウ、 人食いリス、カタツムリの殻を背負った犬、レザーブーツを履いた猫、 耳が ケンカか なにかで 虫に喰われた葉のように 欠けている ネズミ 服が 趣味か なにかで 虫に喰われた葉のように 穴だらけの 人間。 ………人間? 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズがとぼけた声で言うと、教室は笑いの渦となった。 「ゼロのルイズ!召還できないからってその辺歩いてた露出狂連れてくるなよ!」 小太りの少年がガラガラ声を張り上げて嘲りの言葉を浴びせる。 「違うわ!きちんと召喚したもの!こいつが来ちゃっただけよ!」 ルイズが立ち上がり、『床のモノ』を指さして反論する。 当の本人は、 「ぼくのは違う…ぼくのはファッションなのに……」 別方面の中傷に対して傷つく。もはや怒る気力もないようだ。 「嘘つけ!『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう?ゼロのルイズ!」 「なんですって!わたしを侮辱するの!?かぜっぴきのマルコルヌ!!」 「ぼくは風上のマルコルヌだ!かぜっぴきじゃないぞ!記憶力もゼロなのか!」 「あんたなんか『かぜっぴき』で充分よ!喋らないで!風邪が移るから!」 売り言葉に買い言葉…。二人とも段々ヒートアップしてきたようだ。 「ゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロ!!!」 「風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪風邪!!!」 いつまでも続くかのように思われたケンカだが、所詮 人生は有限である。 フーゴがルイズのマントを(力なく)引っ張って、椅子に座らせ シュヴルーズがマルコルヌと一部の生徒に粘土を食べさせることで 子供じみた不毛な争いは終結した。 「どんな理由があろうとも、お友達の悪口をいってはなりません。 それでは授業を始めます」 「──このように、『土』系統の魔法は皆さんの生活に密接に関係して───」 (コイツ随分元気になってるじゃない…) 床にいる自分の使い魔を横目で見て、ルイズは思った。 そう、フーゴはさっきの落ち込んだ様子から一変していた。 こう見えても彼の最終学歴は『中学中退』。 大体必要なことは独学で勉強したが、やはりまだまだ学びたい年頃である! それが初めて聞く事柄なら尚更だ。 窮屈な空間ではあるが、聞いた授業の内容を手帳に書き記している。 最も、書いている文字(?)はルイズにはまったく読めないが…。 それよりも まず、彼に授業内容が理解できているのだろうか? (ま、どうせメモを取ったところで無駄だけどね~) そもそも、魔法が使えるのは貴族のみ。 『平民』であるコイツが勉強したところで できるわけ… そう考えていたルイズの顔が曇り、 不意にトラウマが甦ってきた… 手が止まる。思考が止まる。時が止まる。 {{わたしは?わたしはどうなの?わたしは…}} 息が詰まる。胸が詰まる。言葉が詰まる。 {{わたしにそんなことを言える資格が…?}} 「どうかしたんですか?」 『使い魔』に声をかけられ、時が動き出した。 「大丈夫よ。なんでもないわ」 気丈に振る舞うルイズだったが、その顔色は冴えない。 「本当ですか?何処か悪いのなら…」 「そこ!授業中の私語は慎みなさい!」 中年女教師からの叱責が飛ぶ! 「「す、すみません!」」 見事にハモった。 「そうですね…それだけの余裕があるのでしたら 貴女に この『石』を『錬金』してもらいましょう。ミス・ヴァリエール」 その瞬間!鼓膜が劈くようなブーイングの嵐が巻き起こった! 「先生!『ゼロのルイズ』にやらせるなんて危険です!」 「『ゼロのルイズ』にやらせたら『終わり』って恐怖だけがあるんだよーッ!」 「おまえならできるッ!やれーッ!やるんだーッ!ルイズゥ!」 青ざめた顔で応援するヤツもいるが口の中に何かが見えた。あれも使い魔か? ハッキリ言って、フーゴには皆が何を恐れているのか解らなかった。 わかるのは彼女のあだ名が『ゼロのルイズ』だということぐらい…。 しかし、『危険』というのは一体? ルイズは少しうつむいたが、立ち上がり叫んだ! 「やります!わたし やります!」 教室に響く リンとした声。そして 絶望と落胆の声…。 されど 彼女の決心は変わらず、緊張しながらも教室の前に進んでいった フーゴの目にはその姿がとても凛々しく思えた。 そうだ。せっかく『主人』が魔法を使うのだからぼくも見て── (何コレ…?) 立ち上がったフーゴとは対称的に生徒達は全員机の下に潜り込んでいた。 二重の意味で、授業を受ける姿勢ではない。異常である。 「そんなところで何してるんですか?」 とりあえず一番近くにいた生徒に聞いてみるが… 「いいからお前も伏せろ!危ないぞ!」 …『危ない』?? 「えっ?それはどういう意…」 とりあえず言われたままに しゃがむと…! ドッッグオオオォォォォォォンンンン ギャグマンガでしか見たことがなかったような大爆発! 屈んでいたフーゴの頭を爆風がよぎった! 木片が飛び!窓ガラスが割れ!使い魔たちが暴れ出す! 「なっ!『石』が…いきなり爆発したぞ!?」 突然起きた出来事に対応し切れてないフーゴ。 まさか!?『ゼロのルイズ』というのは…!? 話していた生徒が忌々しげに口を開いた…。 「近づくなよ……『ゼロのルイズ』が『魔法』を使うとき 何者も そばにいてはならない……」 立ちこめていた爆煙がはれ、中から煤だらけになったルイズが現れた。 服はビリビリ、机はボロボロ、教師はピクリとも動いていない…。 そんな悲惨な状況を見まわした彼女の一言。 「ちょっと失敗したみたいね」 コレだけの惨事を引き起こしておいてそれはないだろう…。 いつも魔法が失敗するから『ゼロのルイズ』。 フーゴは そのあだ名の意味をようやく理解した。 そして…朧気ではあるが、自分が彼女に『召喚』された理由も…。 周りのもの全てを巻き込み、破壊尽くしておきながら 自分自身『だけは』何事もなかったかのように君臨する。 その姿は… ───彼女の可愛らしさとは縁遠いはずなのだが─── 忌まわしいほど醜い『アイツ』と重なって映った。 フーゴは痛み出した頭を押さえ、静かに呟いた…。 「…なんてこった……!」 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1587.html
所変わってこちらはルイズの部屋。 貴族相手の『女神の杵』亭でも、上等な部類に入る部屋(最上級の部屋は何故か先約を取られていた)を取ったワルドは、 テーブルに座ると、ワインの栓を抜き、二つあるグラスにそれぞれ注いだ。 「君も一杯やるといい」 テーブルについたルイズは、差し出されたグラスをチラリと見たが、片手でそれを押しやった。 ワルドはすこぶる寂しそうな顔をして、グラスを飲み干した。 「使い魔君のグラスは取るのに、僕のグラスは受け取ってもらえないんだね」 「やめてよ、子供みたいなこと……。 私は貴方のことを信頼しているわ。それで十分じゃないの?」 「まさか……十分とは言えないよ」 ワルドはルイズの小さな顎をくいと持ち上げた。 視線が絡まる。 「君を振り向かせてみせる。そう約束したじゃないか」 ワルドの瞳を真っ向から見返し、ルイズは静かにワルドから離れた。 「私は、大事な話があるっていうからここにいるのだけれど……?」 あくまでつれない態度を崩さないルイズのセリフに、ワルドは途端に真面目な顔つきになり、ルイズから数歩離れた。 「君の使い魔……彼はただものじゃあない。僕には分かる」 またDIOの話かと、ルイズは思った。 この頃は、どいつもこいつも口を開けばDIOの事ばかり話しているように思え、ルイズは複雑だった。 実際にはそんなに会話には上ってはいないのだが、朝のモンモランシーの様子が強烈な印象となって脳裏に焼き付けられていたせいもあり、ルイズは過敏になっていた。 それを表に出すのは……貴族らしくないことは重々承知してはいたが。 「そんなこと、嫌ってほど分かってるわ。 アイツ人間じゃないもの」 ついつい返答がぶっきらぼうなものになってしまわずにはいられなかった。 内心後悔しているルイズに、ワルドは首を横に振って見せた。 「違う、そういう意味じゃない。彼の左手に刻まれているルーンだ。 まだよく見ていないから断言は出来ないが……あれはひょっとすると、『ガンダールヴ』のルーンかもしれないんだ」 「ガン…ダールヴ……?」 「そう、『ガンダールヴ』。 かつて始祖ブリミルが使役したと伝えられる使い魔さ」 突然の話に、ルイズは間の抜けた返事をすることしかできなかった。 しかし、呆気にとられたルイズとは対照的に、ワルドは何故か興奮した様子で語る。 そんなワルドの瞳は、鋭いナイフにも似た危険な光を放っていた。 「使い魔は主人と似た性質を持った者が現れる、というのが通説だ。 ……もし彼がそうだとしたら、君はそれだけの力を秘めたメイジということになるんだ」 真面目な顔をして伝説の話をするワルドに、ルイズは段々ついていけなくなった。 ブリミルが使役したとワルドは言うが、例え事実であっても、それは六千年も前の話なのだ。 遡ること六十世紀である。 そんなものが現代に甦りましたと言われてすぐに信じ込むほど、ルイズは信心深くはなかった。 あるいはガリアの神官だったら、泣いて喜ぶくらいのことはしたかもしれなかったが。 「眉唾物ね。 はいそうですかと鵜呑みにできない話なのは、あなたもわかってると思うけど」 「僕は至って真面目だ。以前王立図書館の文献で見たんだ。 」 間断無く断言してきたワルドに、ルイズは言葉に窮する形となった。 気圧された、と言ってもよいだろう。 それくらい、今のワルドは野心に満ちた目をしていた。 「昔の君も、どこか他のメイジ達とは違う空気を纏っていたが、今の君はそれ以上だ。 底知れないオーラが放たれ始めている……。凄まじい力の迸りだ」 「僕とて並みのメイジではない。だからそれがわかる」 興奮を隠しもせずにまくし立てワルドは再びルイズに迫った。 「た、確かにあいつが凄いのは認めるわ。 でも、それはただ単にあいつが凄いのであって、あいつが『ガンダールヴ』だから、ってわけじゃあないんじゃないの?」 焦ったルイズは、方々に視線を彷徨わせながら、その場しのぎをすることしか出来なかった。 だが、そのルイズの言葉に、ワルドは我が意を得たりとばかりに微笑んだ。 「そうかい? なら、僕はそれを確かめたい。この目でね」 ―――――――――――― 翌日、まだ日がようやく登ったばかりという時に、ワルドは一人廊下を歩いていた。 何事かを秘めたその瞳は深く鋭い色を放ち、道を行く足取りは、目的地に近づいてゆくにつれ重くなっていくばかりだった。 しかし、彼は彼の望むものを手に入れるためにも、その足を止めるわけにはいかなかった。 やがて、一つの部屋の前でワルドは歩を止めた。 それは、『女神の杵』亭で最も上等な部屋であり、昨晩ワルドが借りようとしたが、既に先約を取られていた部屋であった。 その部屋に泊まっている人物の名前をロビーで聞いたとき、ワルドは我が耳を疑うと同時に、やり場のない怒りを感じたものだった。 しかし、幸いにもその怒りが、部屋の中から放たれてくる異様な空気に耐える力をワルドに与えていた。 ワルドは決心するように深呼吸をすると、扉をノックした。 幾ばくかの沈黙の後、やけにゆっくりと扉が開かれ、いつものメイド服に身を包んだ少女が姿を現した。 その少女の姿を見るや、ワルドは心持ち体を仰け反らせてしまう。 昨晩、顔色一つ変えずに盗賊を何人も惨殺した人物……シエスタに、ワルドは苦手意識を感じていたのだ。 「どのようなご用件でしょうか、ミスタ・ワルド」 まさかこんな朝早くからメイドが出てくるとは露とも思っておらず、出鼻を挫かれた形となったワルドだったが、すぐに気持ちを立て直すと、率直に用件を伝えることにした。 「あぁ、朝早くからすまないとは思うが、君の主人に会わせてはもらえないか? まだお休みであるというなら、時間を改めてからまた来るが……」 貴族と平民という関係であるにも関わらず変に下手な口調なのは、自分に自信を持っている証拠か、それとも苦手意識の表れか。 いずれにせよ、貴族特有の傲慢な態度を出さなかったことが功を湊したのか、案外すんなりと取り次いでもらえることが出来た。 入室を許可され、シエスタに続いて部屋に入ったワルドだったが、一歩部屋に足を踏み入れた途端、彼は自分の背中に氷柱を差し込まれたような寒気を感じて硬直した。 部屋に入る前から、その異様な雰囲気に鳥肌を立てていたが、扉の中と外ではその雰囲気の濃さは段違いだった。 重苦しく、絶望的で、息が詰まりそうな圧迫感が全身を包んだ。 思わずそのまま回れ右をして立ち去りたい衝動に駆られるが、雀の涙ほどのプライドで何とか持ちこたえる。 改めて一歩一歩ゆっくりと奥へと進むその足取りは、断頭台への階段を上る囚人のように沈痛だった。 やがて部屋の最奥に至ったワルドを、部屋の主であるDIOが薄い微笑みを顔に浮かべて迎えた。 「これはこれは、子爵。小鳥も目覚めぬ早朝に、一体何のようかな?」 急な訪問に対して、嫌な顔をするどころか、まるで待ちかねていたような口振りである。 「いや、こんな朝でしか話せないこともあるのだよ、使い魔君」 敢えてDIOを単なる使い魔としか認識していない振りをするワルド。 ワルドよりも頭一・五個分は背の高いDIOの視線が、自然と見下ろしたような形であり、 それが段々ワルドの自尊心を刺激し始めたからだった。 再びこの息の詰まるような部屋の空気に飲まれてしまう前に、ワルドは勢いに乗せて話を進めることにした。 「君は伝説の使い魔、『ガンダールヴ』なのだろう?」 「…………?」 単純明快なワルドの問いかけだったが、しかし、DIOは心当たりがないと言わんばかりに眉をひそめただけである。 それらしい反応を返してこないことに、ワルドは焦ったような素振りを見せた。 「『ガンダールヴ』! 君の左手に刻まれているルーンのことだ! 学院長のオスマン氏などから聞かされていないのか?」 あのオスマンなら十分ありうるという事実に、ワルドは言い切ってから気がついた。 本当に知らないのかもしれないと、不安になったワルドだったが、 オスマンの名前を聞いて、DIOはようやく何かを思い出したような顔をした。 「あぁ、『ガンダールヴ』か。 確かにオスマンとやらがそんな単語を口走っていたな。忘れていたよ」 ホッとするとともに、ワルドは少し落胆した。 ルイズも、この使い魔も、伝説の『ガンダールヴ』に対して全く興味を示していないからだった。 自分一人だけが舞い上がっているような錯覚に陥り、非常に気まずい。 「う、うむ。思い出してくれて何よりだ。 ……とにかく君はその腕前を以て、あの『土くれ』のフーケを撃退した。 これは事実だ」 「撃退ときたか、フフフフフ………いや失礼、ハハハ……」 『撃退』という部分を聞いた途端、DIOは何とも面白そうに笑い出した。 その理由が分からないワルドは、おかしそうに笑うDIOに首をかしげるだけだった。 DIOのひとしきりの笑いに区切りを見た後、ワルドは咳払いをした。 「……ゴホンッ。 そこでだ。あの『土くれ』を追い払ったほどの君の腕前に興味が出てね。 実力を知りたいのだ。手合わせ願いたい」 その一言で、笑みを浮かべていたDIOの顔が、見る見るうちに冷たくなっていった。 同時に、ともすればこの場で即座に襲いかかってきそうなほどの敵意が、背後からワルドに突き刺さった。 確認するまでもない、シエスタだろう。 反射で背後を向いてしまわぬように、ワルドは全力を傾けた。 前門のDIO、後門のシエスタである。逃げ場など無い。 「何かと思えば決闘の真似事か……このDIOに対して」 「……その、通り」 血のように赤く、液体窒素のように冷たい瞳がワルドを射抜く。 いつのまにか固く握りしめていた拳が、汗でじっとりと濡れていくのを感じつつ、ワルドはDIOを見返した。 DIOは暫くワルドを睨んでいたが、ふと何かを思いついたような顔をして考え込み始めた。 ワルドにとっては胃に悪い沈黙が続いたが、やがてDIOは顔を上げ、了承の意をワルドに示したのだった。 「うむ、いいだろう。 この決闘は、お互いを深く知る良い機会になるだろうからな」 その時のDIOは、先程の渋い顔とは打って変わった、清々しいものであり、かえって不気味ですらあった。 しかし、何か嫌な予感を感じても、これは自分が選んだ事である。 そうそう容易く裏をかかれるような事態には陥らないだろうと踏んでいた。 DIOの了承を受けて、ワルドは決闘の段取りを伝えた。 「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦でもあったんだ。 中庭に練兵場がある。私はそこで待っているから、準備が整い次第、いつでも来たまえ」 そう言い残して、ワルドはDIOの部屋を後にした。 シエスタの刺すような視線のせいで、部屋を出るまでのわずかな距離がやけに長く感じられた。 やっとの思いで部屋を出て扉を閉めた後、ワルドは知らず知らずのうちに深い溜息をついていた。 DIOの部屋の中での圧迫感のせいで締め出されていた酸素を、 必死で取り戻すかのようでもあった。 ワルドは呼吸を落ち着かせた後、ひとまずは自分の思い通りに事が運んだことを喜んだ。 DIOと立ち合い、『ガンダールヴ』の力を引き出し、その上でDIOの力の限界をルイズに見せつけるという筋書きである。 だが、彼の画策した決闘劇が、思いも寄らぬ方向へ逸れていくことになるとは、思いも寄らなかった。 二十分後、約束の場所である『女神の杵』亭中庭の練兵場。 そこでワルドの前に立ち塞がることになったのは、メイド服に身を包み、無表情ながらも焦げ付くような闘志を身に纏う、シエスタという少女であった。 「これは……一体どういうつもりだ?」 to be continued……